第一章【銀家】

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椿と柊希に宛がわれた部屋は、控えめに言っても豪華すぎる部屋だった。二階に上がってまず目を引いたのが、廊下の行き止まりに嵌め込まれた長方形のステンドグラスの窓。外の光を反射してきらきらと輝くそれを挟んで向かいあった二室が二人の部屋で、とても日当たりのいい場所である。一人一室というだけでも十分驚いたが、中に入るとあまりの広さに、椿と柊希は唖然としてしまった。 椿の部屋には、以前ここを使用していた夫人が置いていったという天蓋付きの寝台と、明らかに高級そうな桐箪笥が綺麗なまま居座っていた。夫人がいなくなってからもここの住人によって毎日のように手入れされているらしい。翔勇はそのまま使用してくれて構わないと言っていたが、当の椿は微妙な返事を返していた。 椿は嫌そうにしていたが、柊希はぜひとも姉にあの寝台で眠ってほしいと思っている。今までろくな寝床を与えられてこなかった姉に、あの上等そうなシーツで心ゆくまで休んでもらいたかったのだ。そして何より、翔勇に負けず劣らず大変顔の整った姉が、レースがたっぷりあしらわれたクリーム色の寝台で寝ているところを見てみたかったのである。きっと異国の絵画のように美しい光景に違いない。 柊希の部屋には地球儀や世界地図、船の模型など、西洋の置物が並べられていた。どれも初めて見るものばかりで落ち着かない。海を越えて、遥か遠い異国へ来てしまったかのような気分にさせられた。もっとも、実物の海など見たことはないが。 『それじゃあ俺は一階の居間で待っているから、ある程度荷解きが済んだら下りてきてくれ。居間は玄関から階段を上らず、まっすぐ進んだ先だ。』 翔勇はそれだけ言うと、上がってきた階段を下りて行ってしまった。取り残された椿と柊希は、思わず顔を見合わせる。荷解き、と言っても、椿と柊希の荷物は、片手で持てるほどしかなく、数枚しかない衣服と数少ない小物を仕舞うだけですぐに終わってしまう。 「とりあえず、言われた通り荷解きを終わらせよう。そしてそれが終わったら、私のところにおいで。」 椿は柊希の頭を軽く撫でると、無表情のまま柔らかい声音でそう告げた。 「姉さんの部屋で何すんの?」 「作戦会議。」 相変わらず微動だにしない椿の表情が、柊希にはその一瞬だけ不敵に笑っているように見えた。
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