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「え?」
「あ、いや! なんでもないです!! 自分の顔なのに可愛いなって」
「……頭でも打った?」
「打ったかもしれないですけど、多分精神に異常はきたしてないです!」
「多分って……なんでそんな自信なさげなのよ」
「すみません。自分の認識にいまいち自信が持てなくて、その……」
もちろん、いくら僕でも普段はそんなとんちんかんなことを言い出したりしない。見えているものは、一般的な形で認識できているはずだ。
でも、だからこそ信じられなかった。
「ここに映っているのは、僕じゃないんです」
少しタレ目で、淑やかそうで、お城の姫君みたいな顔だった。
柔らかな顔立ちに、ふんわりと波打つ長い髪がよく似合う。髪の色は金と茶の間という感じだ。亜麻色の髪って確かこんな風だった気がする。
そして、僕もまた黄緑の着物を着ていることに今さら気が付いた。
金色の花模様があしらわれた白い羽織を纏っていることもあって、下手すると女性である彼女よりも華やかかもしれない。
僕は視線を下げ、恐る恐る確認した。
「……えっと、ちゃんと男みたいです」
「つまり、姿が変わっているというわけね。それも、女の子のような外見の男に」
「僕より呑み込み早いですね!?」
「自分の姿って、案外他人の方が正確に認識しているものよ」
「そういうものですかね……」
「まぁ、やることは変わらないわ。風邪をひくよりましでしょう?」
「え、僕を女の子だと思ったから脱いだんじゃないんですか?」
「別に。性別が分からないままというのが気持ち悪かったから、確認したまでよ」
脱ぎ出した当の本人は相変わらずの平常運転だ。もしかして、背中を見てしまっただけでパニックを起こす僕がおかしいのだろうか。
「いや、でも……」
「心配いらないわ。職業上、男の裸体なんて腐るほど見てきたから」
「しょ、職業?」
「私、薬師をやっているのよ。ここに来たのも、薬の材料を集めるためだったの」
「あぁ、なるほど」
どうやら、あの籠の中身は薬草らしい。
喋っている間にも、彼女はてきぱきと衣服を絞っているのだろう。水の滴り落ちる音が、絶えず聞こえてくる。
「…………」
ひとまず、作業に集中することだけを考えることにした。着物をはだける際の熱も、耳をさわりと撫でる水の音も、全部無視した。
そして、二人とも後始末を終えた頃合いで、彼女が再び口を開いた。
「一つ、聞いてもいいかしら?」
「あ、はい」
「なぜ、転生したと思うの?」
あまりにも自然な声色だった。
だから一瞬、問いの内容を理解できなかった。
「物語で得た知識から『異世界に来た』と思うのは、分からなくもないわ。だけど転生って、死後に生まれ変わるということでしょう?」
「えぇ、まぁ」
「自分が死んだという根拠はあるの?」
「……いえ」
少し考えてみたけど、駄目だった。
「ここに来る前のこと、全然覚えてないんです。心当たりはあるんですけど」
「心当たり?」
「えぇ。僕……もう、いつ死んでもおかしくない体だったんで」
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