帰ってきた日常

7/9
前へ
/187ページ
次へ
「ねぇ、桜介。 あんたも時宗君にお礼を言いなさいよ。 私たちは一緒に危機を乗り越えた仲間でしょ。 つまらない意地は張らないでよね」 愛理にそう言われて、桜介は時宗に目を向けた。 (もちろんオレは時宗に感謝している。 舞ちゃんの夢を救えたのも時宗のおかげだし、ピンチのときにオレを助けてくれたのも時宗だ。 そんな時宗は本当にカッコいいよ。 オレなんかよりもずっと……) 桜介は心の中でそう思っていたが、口をついて出てくる言葉は本心とは違っていた。 「時宗は仲間かもしれねぇけど、オレは時宗に負けたくねぇし、負けねぇからな! 時宗がイケメンで背が高くて、モテモテでも、絶対に負けねぇからな!」 時宗は自分の理想であり、憧れだと桜介は心の中で思っていた。 もしも自分が時宗になれたならって、桜介は今まで何度も想像していた。 今の自分が時宗に勝てないことは自分が一番わかっていた。 でも、いつかは自分も時宗と同じくらいに高いところに行ってみたい。 桜介は誰にも言わずにそんな思いを胸に秘めていた。
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加