さくら通り商店街の奇蹟

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さくら通り商店街の奇蹟

「僕は、近いうちに子供が生まれる、まずいんだ、このままじゃ、生まれてくる子供が育てられない、お金が入らなくなる」。 みんないきなり何言い出すんだという顔で聞いている。 ビールなんか飲みながら、あまり話に耳を貸さない。 魚屋の厳さんが、 「で、それがどうした、何とかなるさ」と赤い顔でどなる。 金物屋の茂三さんも、うなづいている。 「この商店街は戦後からずっと続いてるんだ、ほら、贔屓にしてくれてるお客が沢山いるだろ、なっ、なっ、心配しなくていいよ」。 ノー天気なものだ。 「なあ、そんなのんきな事じゃないんだ、ハッピータウンが出来ただろ、あれで、うちのお客さんがどんどん減ってる。 この前なんか、いつもうちで買ってくれてたお客さんが、こそこそ店の前を小走りでとおりすぎて、ハッピータウンの方に行くんだ。 売り上げは3割も落ちてる」。 「うちはそうでもないよ」スポーツ店の浩紀さん。 学校への納品があるので、まるで危機感がない。 「うちもまだどうってことないなぁ」和菓子屋の和子さん。 ここのお菓子でないと駄目というお客さんが沢山いるので、安心している。 「そういやぁ少し売り上げ下がってるな」魚屋の茂さん。 でも、みんなどこか他人ごとみたいだ。 「みんな、現実を見ろよ、このままじゃ間違えなくシャッター商店街になる」。 「まさか~」一同。 「いくら言ってもダメみたいですね。じゃ次の一か月後の会合の時までに売上がどうなったか、みんな報告してください」。 「めんどくせいな、まっお前がそこまで言うのならつきあってやるか」。 「お願いします。ぜったい売り上げ落ちていますから。僕はそれまでに、何かいい手がないか考えてみます」。 ということで、お開きになった。 家に帰って、嫁のお腹をさわってみる。 今にも生まれそうだ。 ぜったいまずいよ。 一週間後。 あれこれ考えたが、何もいい知恵が浮かばない。 商工会にも行ってみたが 「う~困りましたね」と言うばかりで、頼りにならない。 そんな時、いとこの環奈は進学で悩んでいた。 病気の母親と二人暮らしなので、この町を離れられない。 進学したいが、働かないとまずい状況。 「ああ~、いやになっちゃう、ねえ華聞いてよ」。 親友の華にぐちっている。 「ホントどうしよう、マジ困った」。 「なるようになるわよ」。 「何それ、少しは考えてよ」。 「だってそれはあんたが決めることでしょ」。1d0ef33a-e0e4-43ca-be2e-d942c37f5513
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