さくら通り商店街の奇跡

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さくら通り商店街の奇跡

「たっ、大変だ、コロなんちゃらのせいで店開けられなくなるぞ!」 居酒屋「とし坊」の俊さんが血相を変えて、商店街組合の事務所に飛び込んできた。 8人くらい集まってる商店主は首をうなだれている。 僕も、そうだ。 ただでさえハッピーマートのせいで危ない状況なのに、傷口に塩を塗り込むまれるようなひどいことが起こった。 国が「新型コロナウイルス対策」で、非常事態宣言を発動したのだ。 必用最低限しか出歩いてはいけない。 飲食店やLIVEハウス、カラオケボックスなどは、店を閉めなさいなどなど他にももっと。 確かに、状況は理解できるけど、無茶苦茶だ。 僕たちの生活はどうなる。 現金商売をしている僕たちは、まったくのお手上げだ。 すずめの涙ほどのお金は国からもらえるみたいだが、 そんなの、すぐに消えてしまう。 あまりにも突然なので、どうしていいのかまるで分からなくて、 みんな途方にくれている。 組合長の寿司屋「さくら」の店主の源太さんも首をかしげている。 窓から入る陽射しが傾きはじめて来た。 時計の音だけが響き、誰も何もしゃべらない。 この雰囲気はマズイ。 思わず僕は、「なあみなさんここでうなっててもラチが開かない、俊さんの店に行って 一杯飲みながらはなしましょうよ!」と言ってしまった。 もともと飲兵衛が多い店主たちは、それもいいかもと、席を立ち始める。 河岸を「とし坊」に移し、とりあえずビールで乾杯。 こんな時でも、みんなの顔がちょとほころぶ。 基本、みんな楽天家なのだ。 だから、こんなさびれた商店街でも店を開きつづけている。 なんとかしなくちゃな。心からそう思った。 それに、僕ももうすぐ子供も生まれる、しゃれじゃすまない。 「なあ、何かいいアイデアないだろうか?」源太さんがみんなに声をかける。 「じゃ、規制される前に、赤字覚悟の大売り出し、とかは、とりあえず現金が入る」 一瞬みんなの顔がぱっと明るくなるが、すぐしゃんぼりとなる。 魚屋や八百屋はいいけど、俺たち飲食店はそれじゃダメなんだ。 カラオケボックスの慎二さんが悲しそうにつぶやく。 確かに、そうかも。 段々やけ酒っぽくなって、みんなへべれけになつて、 何も進展がないままその日はお開きとなった。 「なあ、ひろ子、どうしようか?」 「何とかしなさいよ、と言いたいけど、まいったわね」。 大きくなったお腹をさすりながら、ひろ子が答える。 37d2ae3c-3dc7-4cfb-8966-371663c17c48
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