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骨まで愛したひと
数歳のころ。ぼくは石屋(石工)の爺ちゃんと親しかった。
家の近くで金槌を叩く金属音が聞えるので、ぼくは見に行った。田んぼの畦にある大きな石を、石屋の爺ちゃんが石鑿で穴をあけていた。金属音は石鑿を叩く金槌の音だった。
ぼくは爺ちゃんが働く現場を、爺ちゃんの右側の田んぼの畦から見ていた。すると、爺ちゃんがぼくに声をかけた。
「割れた石が飛ぶから、爺ちゃんの後に隠れてろ」
ぼくは畦道を歩いて、爺ちゃんの後に立った。
「石には「目」があって、目にそって割ると、簡単に割れるんだ」
爺ちゃんは石鑿で大きな石に穴を掘りながらそう教えてくれた。
爺ちゃんは、大きな石に、石鑿で楔状の穴を十センチほどの間隔で一列にたくさん掘った。その穴に鏨を入れて、大きな鉄槌で交互に叩くと大石が割れるという。
多数の鏨を穴に入れるとき、爺ちゃんは鏨に藁を一本ずつ巻いて大石の穴に入れた。
なぜ藁を巻くのか訊くと、
「藁の柔らかさで、鏨の力が均等に石に伝わり、穴が壊れないで、石が割れる」
といって爺ちゃんは大鉄槌を振るった。大石は並んだ鏨にそって割れた。
後に、石の目は結晶粒界、藁は、穴にかかる力を均等に分散させて穴を破壊せずに石本体に力を伝える、緩衝材と知った。
梅雨の曇り空の日、ぼくは爺ちゃんの家へ行った。
爺ちゃんは石割の仕事をしていなかった。スコップとツルハシを持って出かけようとしていた。どこへ行くか訊くと、
「お墓へ、父親と母親を掘りだしに行く。石箱に納めるんだ。坊(坊や)も行くか?」
二〇年ほど前に土葬した、両親のお骨を掘りだし、お墓の石箱(石で作った大きな納骨箱、上に三基から四基の石塔が建っている)に納めるという。
ぼくは行ってみることにした。
爺ちゃんが墓地を深く掘り起こすと頭蓋骨が出てきた。目の部分や鼻や口から、細い根が絡まって頭蓋骨の表面を這っていた。骨の色は黒みがかった灰色の木の根のようで、骨には見えず、作り物のようだった。
「父親の隣りに母親を埋葬したんだ・・・。髪の毛は腐らないんだなあ・・・」
爺ちゃんはそういい、髪の毛と頭蓋骨を掘りだし、他の部分の骨も掘りだした。
全部掘りだし、両親の骨を墓地に並べた。すべての骨があったわけではないが、太い部分や堅い部分が残っていた。
太い大腿骨が、髪の毛とともに置かれた頭蓋骨側にあるので、ぼくは、これは爺ちゃんのお父さんだろうといった。
すると、爺ちゃんは、ぽつりと、
「俺の父親は母親より小柄だったんだ」
といった。そして、今度は大声で笑いながら、
「骨が太くなるほど、母ちゃんは、父ちゃんに愛されてたんだなあ」
といった。ぼくが怖がらないよう、爺ちゃんは気づかっていた。
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