エブリスタ作品から学びたいこと・その2 ――語り手の性別――

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エブリスタ作品から学びたいこと・その2 ――語り手の性別――

     前回予告した通り「エブリスタ作品から学びたいこと・その2」です。やはり今回も、短編作品を読んでいて気になった点。そこから「自分の作品を書く時には気をつけよう!」と考えた、という話です。  前回のポイントであった、冒頭部で「一人称小説か三人称小説か」を示すという話。例えば、真っ先に『私』という主語が出てきたら、 「ああ、これは一人称小説なのだな」  と理解できるから、そこまでは良いのですが……。  でも、それでも読んでいて気になってしまう時があるのですよ。 「はて? この『私』という語り手は、男なのだろうか? それとも女なのだろうか?」  と。  前回の話は、別にエブリスタ作品ではなくても遭遇し得る問題でしたが、それと比べたら、今回は一応「エブリスタ作品だから」という要素が強くなっていると思います。  ほら、私はエブリスタのことを、恋愛小説メインの小説投稿サイトだと認識していますからね。  どんな作品でも語り手――主人公――の性別は気になるかもしれませんが、恋愛短編では、特に重要になってくるのではないでしょうか。  まず、恋愛ものでは、他のジャンルの作品以上に、登場人物たちの心の動きが大切な気がする。そして読者というものは、登場人物に共感して、ある程度自分を重ねてしまう場合が多いのでしょうし……。  そうなると。  主人公である『私』が、自分と同じ性別なのか、あるいは異性なのか。後者の場合は「もしも自分の性別が今とは逆だったら」という目線で読んでいくことになるのだと思います。  いや、どんな物語でも主人公が男性の場合と女性の場合で行動パターンは大きく違うのでしょう。でも恋愛ものでは、その違いが、思いっきり物語展開に反映されるように感じてしまうのです。  例えば、主人公でもある語り手のことを男性だと思って読み始めて、女性キャラが出てきたら「これがヒロインかな? つまり恋のお相手かな?」とか、男性キャラが出てきたら「親友枠かな? あるいは恋のライバル枠かな?」とか、無意識のうちに少しは想像してしまうはず。ところが「実は主人公は女性だった!」と途中で判明したら、それまで読んできた理解がガラリと崩れてしまう。私は「混乱したので、もう一度最初から読み直す」というのをしたこともあるくらいです。  意図的に作者が読者を混乱させようとする技巧的な小説もあるのでしょうが、そうではなくて読者が勝手に混乱するのだとしたら、それは小説として不親切、大げさに言えば些細なミスだと思うのですよ。  三人称小説ならば、カタカタ名前でない限り、名前が出てきたところで普通に性別もわかるでしょうし、一人称でも『俺』ならば男、『あたし』ならば女だと思えるでしょう。だから問題となるのは、『私』のような、男でも女でも使う一人称の場合。といっても、小学生で『私』な男の子なんていないでしょうから、主人公がある程度の年齢の場合のみ。  いや、そもそもキーワードとして「男性主人公」とか「女性主人公」とか明記しておけば問題解決なのかもしれませんが……。そこまで見ないで、いきなり本文を読み始める人もいるでしょうからね。  私なんて先日、とても短い作品を読んでいた時「この短編、主人公が『俺』なのに、相手役を『彼氏』と書き表している。じゃあ俺っ()なのだろうか?」と不思議に思って、読後にジャンルを確認したらBLだった、ということもありました。これは酷い例であって、そこまでのうっかりさんは少ないはずですけど。  でも、やはり作品冒頭で主人公の性別を明示するのは、読者の混乱や違和感を防ぐために、大切なことだと思ったのです。  その点に注意して、いざ実践!  おそらく、一番手っ取り早いのは、 > 私の名前は、花田咲子。今日から新しい学校に通う、高校一年生!  みたいに、書き出しで名前を示してしまうパターン。でも、作品の雰囲気的に、この書き方がそぐわない場合もありますよね……。  以下は、実際に私が投稿した作品の冒頭部です。今回のテーマを私が意識するようになったのは最近になってからなので、今月投稿した作品の中から「語り手が『私』という言葉遣いの短編」を選び出しています。  私が気をつけようとしている「冒頭で『私』の性別を明らかにする」というのが、どれくらい実行できているか、どうぞ皆様もチェックしてみてください。  上手く出来ていると褒めていただけるか、あるいは「言うほど出来てないぞ」と笑っていただけるか……。たとえ後者であっても、それはそれで悪い見本となるので、こういうエッセイで取り扱うには良い素材だと思えますから。  まずは、4月3日執筆、4月4日投稿の『傘も心も盗まれて』冒頭部。 > その日は朝から、シトシトと雨が降り続いていた。 > なんとなく憂鬱になってしまう一日だ。私のような一人暮らしの男が、わざわざ自炊する気分ではなく、弁当を買って帰ることにした。  作品全体として風景描写が少ない上に、雨が降っているというシチュエーションが重要な物語なので、せめて最初はそれっぽく始めよう、と思いました。なので、一行目で性別を明らかにするのは無理でした。というより、前回のテーマである「一人称小説か三人称小説か」すら、一行目では曖昧ですね。  二行目、文としては三つ目で、ようやく『私のような一人暮らしの男が』と入れることが出来ました。この言葉もない方が、前後の文章はスッキリ繋がる気がするのですけれど。  続いて、4月7日執筆、4月8日投稿の『いつか受け取るプレゼント』冒頭部。 > その日の私は、お気に入りのシュシュの色に合わせて、スカイブルーのスカートをはいていた。一人でCDショップへ行くだけだから、オシャレをする必要はなかったけれど。  これは、少し頭を捻りました。その結果、出てきたのが「男だったら普通しないようなファッションの明記!」というアイデアでした。シュシュとか、スカートとか。  確か、この冒頭の一文、何度も書き直した気がします。最初『お気に入りのシュシュの水色に合わせて、水色のスカートを』だったのを、『の』の重複を避けて『お気に入りの水色シュシュに合わせて、水色のスカートを』に直して、それでもまだ、短い間に『水色』という同じ単語が繰り返されるから気に入らなくて。  しかも、そこが気になり始めたら、今度は『お気に入りの水色シュシュに合わせて、同じ色のスカートを』でも『お気に入りのシュシュの色に合わせて、水色のスカートを』でも、もう『色』という文字の繰り返しだけで違和感を覚えるようになって……。結果『スカイブルー』という表現に落ち着いたはず。これはこれで『スカイブルーのスカート』で『スカ』の繰り返しになるのですが、こういうのは頭韻っぽくて、なぜか逆に好感触。私のセンス、ちょっと変わっているのかもしれません。  なお、こうやって半ば無理やり入れた主人公のファッション描写。おかげで『一人でCDショップへ行くだけだから、オシャレをする必要はなかったけれど』と続いたので、後々の物語展開に上手く絡まることになりました。そういう服装で男の子と出くわしたから、みたいな感じで。思わぬ副産物です。  三つ目の作品例。4月13日執筆、4月15日投稿の『「お金がない」と彼が言うから』冒頭部。 > 金木くんは、私と同じゼミに所属する男の子だ。「お金がない」が口癖で、ゼミの飲み会にもほとんど顔を出さないし、昼休みの学食で遭遇したこともない。うちの大学は『学食』の割に値段がそれほど安くないから、貧乏学生には不向きなのだろう。 > > ある日。 > いつもは女の子同士でランチにするけれど、少し遅れたから「もう今日は一人で簡単に済ませよう」という気分で。  色々と考えてみましたが、無理でした。一応『金木くんは、私と同じゼミに所属する男の子だ』という書き方で、「『私』という一人称を使うような大人の男性が、同性を『男の子』とは言わないよね?」と思ったのですが……。  でも、それでは不十分な気がしました。こういう作者の独りよがりこそが、読者の混乱や違和感を招くのだろう、と。  少し手遅れかもしれませんが、数行後に『いつもは女の子同士でランチにするけれど』という語句を入れたのは、「『私』は女の子ですよ!」というアピール。この『女の子同士』云々、そもそも最初はなくて、推敲の途中で加えた部分だった気がします。  最後に、4月17日執筆、4月18日投稿の『亡き妻を想う』冒頭部。 > かつて二人で歩いた公園を、一人になった私が回る。 > スポーツが得意とは言えなかったが、二人とも体を動かすことは好きだった。だから休みの日には、色々な自然公園に出かけて、のんびりと散歩を楽しんでいた。 > 特に妻は水辺の散策を好んでおり、大きな池のあるこの公園は、お気に入りスポットの一つ。今日のような秋晴れの日には、ここを歩きながら、輝かしい笑顔を浮かべていた。  これは……。  むしろ逆に、推敲の過程で、性別明記が消えてしまったパターン。  元々の書き出しは『かつて妻と二人で歩いた公園を、一人になった私が回る』だったのですよ。でも『かつて妻と二人で』だと、なんとなく語呂が悪い気がして。ほら『かつて二人で』ならば、七音になるじゃないですか。それで削ってしまったのですが……。  今にして思えば、それくらいならば『かつて二人で歩いた道を』と始めるべきだった、と少し後悔。そうすれば七音プラス七音となり、もっと語感も良かったはず。とはいえ、あくまでも後悔は『少し』。一度投稿という形で公開したものを修正するほど、大きな後悔ではないので、とりあえずそのままにしています。  ……と、投稿後の話は余談として。  話を戻します。  私としては、作品タイトルにもエピソードタイトルにも『亡き妻を想う』と表記している時点で、『かつて妻と二人で』ではなく『かつて二人で』でも十分だろう、という甘えがありました。こういう「察してくれ」が、本当は読者に対する不親切なのでしょうけれど。  一応、3段落目は『特に妻は』で始めたので、これで相手役が女性であること、つまり語り手が男性であることは、作品本文だけでも早い段階で理解してもらえるはず。そう考えて、自分を納得させています。  こんな感じで。  最近の私は、「冒頭で語り手の性別を明らかにしよう! 特に、紛らわしい『私』の場合!」と考えながら、短編作品を書いています。  これって、こだわるべきポイントなのか、あるいはピント外れなのか。皆様は、どう思われますか?    
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