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ナルシシスト育成所
「薫さ~ん。何か良いネタ無いですかぁ?完全に行き詰まりましたぁ」
わざとらしく机に倒れ込んで媚びるように見上げた私に、薫さんが冷ややかな視線を投げかける。
「情けないなぁ。次回の取材のネタは自分で探すって息巻いてたじゃないの。プライド無いの?プライドは」
「プライドは一旦、この心の奥に閉じ込めました」
胸に手を当て、力強く言い切る私に、薫さんは「ほれっ」とクリアファイルを投げてきた。
「だったらコレ行ってみれば?あ!でも自分の仕事はちゃんとやるのよ。私が編集長に怒られちゃう」
「助かります~」お礼を言ってクリアファイルを取る。
やっぱり薫さんは私に甘いなぁ~。
ウキウキしながらクリアファイルの中身を見ると、中には、たった三行文字が書いてあるだけのメモ用紙が一枚入っていた。
「ん?ナルシシスト育成所……何ですか?ここ。これだけ?」
「これだけとは失礼ね。興味そそられるでしょ?マダムの中で流行ってる教室らしいんだけど、私も詳しくわからないの。検索かけても何も引っかからなくて。気になるんだけど、今、深追いする時間無いのよ」
「へぇ〜。子供を通わせてるって事ですか?ナルシシストって良い印象受けないのに、わざわざ育成してもらうなんて、お金持ちの考える事はわかんないわ。趣味悪~い。薫さんはどうやって知ったんですか?」
オカシイ事は一つも言っていないはずなのに、薫さんは気まずそうな顔をした。
「あの~。この間、接待でチョットお高い料亭に行ったんだけど、ソコでね。何て言うか耳にしたってゆーか聞こえちゃったってゆーか」
気まずそうに口ごもりながら薫さんが言った。
「えっ?盗み聞きですか?この電話番号も?わぁ~引く~。大丈夫なんですよねぇ?」
「固い事言わないで、常に張ってる私のアンテナを褒めてよ。それにその顔……興味持ったね。よろしくっ!」
自分でも涎を垂らしそうな顔をしている自覚があった。
ヘヘッと照れ隠しで笑って自分のデスクに戻り、椅子をクルンと一回転させて座った。
原川華音、二十八歳。
五年働いたタウン誌の制作会社から、この雑誌社に転職してもうすぐ一年が経つ。
世間を賑わせる記事を書いてやる!って大きな野望を持って転職したものの、結局取材をして記事を書くのは以前と変わらないグルメ記事ばかり。そんな日々から抜け出す為に、与えられた仕事をこなす傍らネタを求め続けているけれど、現実は甘くない。
同じ雑誌社で働く大学時代の先輩の薫さんに、おこぼれ仕事を貰って何とかキッカケを掴もうと奮闘している真っ最中だ。
「さーて、頑張るぞ!」
薫さんはあぁ言ってたけど、このネット社会で何の情報も出ないなんて事あるわけない。
念入りに下調べしようとパソコンを立ち上げ、メモ用紙に記してある『ナルシシスト育成所・ネメシス』を張り切って検索欄に入力した。
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