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「一階は展示会とかができるレンタルスペースになってましたけど、今日は無人でした。二階だって聞いていたのに入口がわからなくて、探しながらビルの裏側に回ったら、やたら重厚なドアがあったんです」
「ふぅん。で、その先にあったと」
「急かさないで下さいよ。何の表記も無かったので開けるの躊躇っていたんですけど、ドアに覗き穴があるのに気づいて。覗いて見たらネメシスって文字が浮き出てたんです」
私的には、かくれんぼしている相手を見つけたみたいでテンションの上がる発見だったけど、薫さんは「あぁ、バーでよく使ってる手法よねぇ」と言っただけで、驚いてくれなかった。
そんな事より中の様子を知りたい、といった様子の薫さんの期待に応えるべく、ドアを開けた先の様子を思い出しながら伝える。
ドアを開けると階段があった事、上がりきったた先が、目的の「ナルシシスト育成所のネメシス」で間違い無かった事。
私と同じ歳位のスラッとした中性的な男の人が待ち構えていたので、てっきりその人が代表者かと思った事。
高橋と名乗ったその男の人が、小池さんの所に案内してくれた事。
真っ白というよりもクリームがかった白で統一された室内は、余計な装飾は無かったけれど、無機質な印象は無く、不思議と温かみを感じた事。
ただ、小池の部屋の壁の色が一面だけ紫色で、妙に気になった事。
小池が愛嬌があって童顔で年齢不詳だけど、どこにでもいそうな普通のおばさんだった事。
肝心な「どういう事をしている場所なのか」は何一つわかっていない。
ただ、見た物をツラツラと喋っているだけの私の話しを、薫さんは「うんうん」と優しく相槌を打ちながら聞いてくれた。
「結構広そうだったんですけど、全体は案内されてないんで正確にはわからないです。とりあえず条件をクリアして、正式に取材させて貰えるように頑張ります」
その言葉を聞くと、薫さんは急に「条件?どんな?」と険しい表情になった。
「はい。でも簡単な事でしたよ?私の中で答えはもう出てますし」
何がそんなに引っ掛かったのかわからない。
安心して貰おうと余裕たっぷりでそう言い、条件として出された問題の内容を、言われた通りの言葉で薫さんに伝えた。
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