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「それで、華音の答えは何なわけ?」
てっきり「なぁんだ、そんな事?」って笑うと思っていたのに、薫さんは険しい表情を崩さなかった。
「そんなの受けが悪いからに決まってます。ナルシシストですよ?侮蔑的に言われる事の方が多い人達を、わざわざ育てている場所がある。そんなの知られたら好奇の目に晒されるだけですよ。ネット民の大好物」
薫さんの頭に、このわかりきった答えが浮かんでいないとは思えない。
何を考えているのか気になったけど、それがバレないように、わざと得意気に答えた。
「それに、通っている人達だってナルシシストになりたいって望む変わった人達だ~って、あっという間に個人情報拡散されちゃいますよ。世間は自分が異質と判断したものに厳しいんですから」
捲し立てた私がおかしかったのか、やっと薫さんは「そうねぇ」と言い、笑ってくれた。
「まぁ、普通に考えたらそうなのよ。だからよくわからなくて」
「え?どういう意味ですか?」
「だからさ、そんなわかり切った事、問題にする?」
そう言うと、薫さんは「うーん」と腕を組み、固まってしまった。
「もしかして……私、何か試されてます?」
「取材を拒否する理由にしちゃ陳腐な問題でしょ?ねぇ、小池さん自身はナルシシストをどう思っているのかしら?育成する側なんだから、当然、小池さんもナルシシストって事よね?」
「へぇ?」と情けない声が自分の口から出た。
確かに私もあの場所に行って小池に会うまではそう思っていたけど、あの普通のおばさんと私の思うナルシシスト像が、どうしても結びつかない。
小池自身がナルシシストなのか、違うのか。
ナルシシストじゃなければ、ナルシシストを育てられないのか。
喋り始めた薫さんと入れ替わるように、今度は私が考え込んで話せなくなってしまった。
「少なくとも好意的に思って名付けてるわけよね?育てる位なんだから。うーん、やっぱ、普通に『通う人のプライバシーを守る為』で良いのかなぁ?すんなり取材を受けるのは面白く無くて、揶揄っているのかしら。ねぇ、聞いてる?華音」
「聞いてます聞いてます。でも本当にまだ何もわかんないんですよぉ。今日聞けた事って小池さんの理念位で」
「理念?どんな?」
「攻撃は最大の防御の反対なんですって。でも、それが何でなのかは聞けてなかったなぁ」
「ったく情けないわね。短時間でも聞けるだけの情報は手に入れてきなさいよ。華音も行く前に下調べしたんでしょ?何かヒントになりそうなもの無いの?」
「薫さんの言った通り本当に何も出てこなくて。あっ!代わりにコレを調べました。ナルシシスト・ナルシシズムの由来です」
見捨てられたら困る、慌てて薫さんに資料を差し出した。
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