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――あなたを愛してくれる人を大事にしなさい。貰った愛情を倍にして返せる人になれたら、きっと幸せに生きていけるから。 私を愛せなかったあの女が最後に残した言葉が、呪いのように巻き付いている。きっと今もどこかで平然と生きているあの女。私の心を絞め殺し続けている事にも気付かずに。私の存在さえ忘れて、平然と。 突然、放り投げられた場所で暮らす人達は優しかったけれど、愛は貰えそうに無かった。 ――愛してくれないと大事にできないのに、どうすれば良いの? あの女の教えを何とかして守ろうと、小さい身体で一生懸命考えたけれど、わからない。 困ってメソメソ泣いていたら、鏡の中で同じように悲しい顔をしている自分と目が合った。 どうしたの? そう聞くと困った顔をした。 大丈夫だよ! そう言うと少し元気が出て笑顔になった。  ――あぁ、なんだ。良かった。ここにいる。 その日から私は、この世界の誰よりも自分自身を愛する事に決めた。
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