病気

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病気

「日向理一郎さんは、私の患者でした」 「か、んじゃ?ですか?」 「ええ。本来ならこんな個人情報を話してはならない立場なのですが。でも今は、日向さんの友人の話として聞いて下さい。先ほどお話しましたが、私の専門は脳神経外科。日向さんは、脳に腫瘍を患っていたんです」 「脳……え?え、あの……」 混乱して言葉が出ない。 そんな私を落ち着かせようと、堀川さんは優しく微笑んだ。 「日向さんが私の元に来たとき、腫瘍はかなり大きくて、手術をしても助かる可能性は低かった。しかし、手術をしなければ症状は進み、確実に助からなかった」 「……理一郎さんが脳腫瘍……でも、私、そんなこと聞いてなかったんですけど……」 少し落ち着いて頭を整理する。 ただ、理解するには情報が足りない。 私はしっかりと堀川さんに向き合うと、背筋を伸ばした。 「問題はそこなんです。当時日向さんは、腫瘍のせいで、性格が変わっていたと思います。酷く怒りっぽかったり感情がコントロール出来なかったり……」 「えっ、あれは腫瘍のせい!?」 「ええ。たまにあることなんです。日向さんはそんな状態を利用してあなたと別れようとした。あなたに嫌われるように、愛想をつかされるように仕向けたんですよ?」 「は?一体何の為に!?」 つい大声が出た。 妻であった私には何も言わず、堀川さんと結託して別れようと!? そこで、私は不意に思い出した。 堀川さんから漂う香り。 それは当時、理一郎さんの体から匂ってきたものと同じだと。 「……堀川さん、あなたは理一郎さんとそういう……関係だったの?」 私の言葉に堀川さんは目を丸くし、ブンブンと首を振って否定した。 「違います!なぜそう思われたのですか?」 「匂いが……あの頃の理一郎さんが、堀川さんと同じ匂いをさせていて……」 そう言うと、堀川さんは「あー……」と何かに納得した。 「診察の時、立つことも出来なかった日向さんに手を貸したことが何度もあります。きっと匂いはそれでしょうね」 「で、でもっ!頻繁にどこかに電話して!出かけて!帰ってきたらその匂いが……」 「痛みが酷かったんです。日向さんはその時、病院に来ていましたよ。看護師に聞いても構いません」 「じゃあ、なぜ……別れようと……」 堀川さんと関係がなかったのなら、私と別れたい理由がわからない。 いつの間にか、愛は冷めていたのか。 好きだったのは私だけで、理一郎さんは一緒にいたくないくらい嫌いだったのかも……。 ネガティブな感情が心を支配する。 それを払拭したのは、隣で私の手を握った堀川さんだった。
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