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日差しが眩しい夏の朝。
途切れることなく毎日訪れる朝。
今日も私はキッチンで家族が起きてくるのを待つ。
「おはよう」
「おはよう、マナ。あーあ、寝ぐせがすごいよ」
一人娘のマナが、ぴょんっと跳ね上がった前髪を揺らしながら起きてきた。
そのままリビングのソファにどかっと倒れこんで二度寝をする。これが彼女の毎朝のルーティンだ。
夫はマナよりも少し前に起きて、ソファの端に座ってモバイルパソコンをいじっている。ローテーブルにはブラックコーヒー。彼は若い頃から朝食を食べない。私はマナの分の食事だけ気にかければいいから、とても楽だった。
既に生の食パンと牛乳とバナナがダイニングテーブルの上に用意してある。マナはなぜかトーストがあまり好きではないのだ。
「マナ、早くご飯を食べなさい」
私が声をかけようとしたら、夫が隣で寝そべるマナを一瞥してそう言った。
「……はーい」
むすっとした顔でマナはむっくり起き上がり、ゾンビのような緩慢な動きでダイニングテーブルに着く。夫はマナが食事を始めると、パソコンとともに自分も移動してきてマナの正面に座る。
テレビでは、お天気にちなんだクイズ問題が出されていて、dボタンで答えを選択するよう気象予報士が促す。
「あー! お母さんこの問題知ってる! 赤よ」
「……緑だな」
「マナがボタン押す!」
マナは立ち上がってテレビの前まで行き、緑ボタンを押す。
「えー!ちょっと、緑じゃないでしょー。マナ、赤にしてよ」
そう言ったところで、「ここで締め切ります」のアナウンス。
朗々と読み上げられた答えは、なんと緑だった。
「ほらな。お父さんが合ってただろ?」
「パパ、すごーい!」
夫はニヤリと笑って見せた。
「……何よ、まぐれでしょー。いっつもはずしてるくせに」
夫の得意げな顔にちょっとムカついた私は、キッチンを離れてマナの部屋へ行く。
机とおもちゃの入った棚、ピンクのポールハンガーが置いてあるだけの小さな部屋。ベッドはここにはない。まだ5歳。親と一緒でないと一人では寝られない。
保育園の支度のチェックをするために、ポールハンガーにかけられたレッスンバッグを覗く。
お給食セットに着替え、タオルに……お、英語教室の月謝もちゃんと用意してるじゃん。
夫が昨日の夜に準備しておいたようだ。共働きだからとマナの保育園の支度を教え込んで約半年。ようやく忘れ物を一つもしないで完璧に準備ができるようになったようだ。なんとも感慨深い。
仕事が一つ減った私は、夫と娘が待つリビングへと戻る。
朝食を終えたマナは、既に着替えてぼーっとテレビを見ていた。画面の中では、海水浴を楽しむ家族連れが楽し気にインタビューを受けていた。
「海、行きたいね。今度パパに連れていってもらおうね」
マナの返事はない。
ただ無心で画面を見つめるその瞳が、本当は何を見ているのかは私には分からない。
「髪、そろそろ切らなきゃね。マナの髪は細いから、すーぐ絡まっちゃうんだよね」
「おーい、マナ。園服着て。そろそろ行くよ」
夫がスーツのジャケットを羽織って隣の部屋から出てきた。
この真夏の暑い中で、どうして男性はジャケットを着るのだろう。朝の登園は夫の担当だが、夏場は毎年汗だくで、先生やクラスのお友達に笑われていた。この格好でさらに自転車を漕ぐのだから、私にはもう理解不能だ。
でも、本当によくやってくれていると思う。ありがたい。
マナは自分の部屋から園服とバッグを持ってくると、テキパキとした様子で袖を通し、ボタンを閉める。いつもセーラーの襟が中に内側に入ってしまうのを私が直していたが、今はもうそんなこともなくなった。
子供の成長の早さに驚かされる。同じことを繰り返す毎日の中で、子供は着実に何かを学んでいる。ただぐるぐると同じところを回っているのは、実は大人の方なのかもしれない。子供の方がよっぽど、前へ進む力を持っている。
夫がテレビを消す。
「よし、行こうか!じゃ、ママに行ってきますしなさい」
「はーい」
マナは私の方を向く。
そのまま私を通り越して、隣の和室へ向かう。
その奥にひっそりと置かれた小さな仏壇の前に座り、小さな両手を合わせた。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
私はマナの背後から声をかけた。
二人が靴を履いて外に出るのを手を振って見送ると、私は一人きりになった空間でそっと息をついた。
そろそろいいかもしれない――。
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