01 桜の下、姫との出会い

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01 桜の下、姫との出会い

―2045年、架空の都市·海ヶ丘(うみがおか) 海ヶ丘は名前の通り、海に面した都市で人口は凡そ19万人くらい。VRやAR技術の研究が日夜行われており、そのための施設や研究成果を部分的に取り入れている医療機関や学校が点在していた。 そして、病院で諸事情から療養していた少年·星空(ほしぞら)一輝(かずき)は、久々の退院を友人たちに連絡していた。 『本当に今度こそ退院できるんだな、一輝!……待っていてよかったよ。それで、入学式には間に合うのか?』 「うん、今ちょうど退院手続きが終わって家に戻るところだよ」 『では、また後でな一輝!』 (いよいよ今日から僕も中学生か……思えばこの病院での生活も2年半くらいって結構長かったからな。今度はできるだけ休まずに行きたいな) 「一輝、手続き終わったから車に行くよー!昼から入学式でしょ?早くしなさーい」  「うん、すぐ行くよ!」 一輝はスマートフォンを触るのをやめてポケットにしまうと、母の後を追って車に乗り自宅へと戻った。 ―一輝の部屋 一輝の家は父も母も有名な電脳研究者だったこともありそこそこ広く、各個室の広さも当然すごかった。 「うわぁ……しばらくこのゲームやってなかったからものすごい数のチャットが来てる……」 今から2、3年ほど前に一世を風靡した次世代型VRMMORPG〈メビウスリンク·オンライン〉で一緒にゲームをプレイしていた仲間たちは一部を除き、彼の事情を知らなかったため、心配のメールをよこしていた。 『カズ、元気してたか?大丈夫か、最近何も音沙汰ないけど 斧使いドゴンド 』 『まさかとは思っていたが、本当に2年半もログインどころかオンラインに繋がってすらなかったとは…… 槍使いシュベール』 『大丈夫、少し入院してただけだから。今日から中学生だし、何より今日は新しいバージョンへのアップデートの日だよね?すごく楽しみだよ! 剣士カズ』 『けど、全ステータスリセットってのは痛いよなぁ…… 斧使いドゴンド』 『あはは……その辺はもう、どうしようもないだろうね。新規の人たちだっていないとも限らないから 剣士カズ』  『なるほど……古参も新参も皆一緒にゲームをゼロから始めろ、とな。運営もよくやるよ 槍使いシュベール』 『でもよ、所持金に関してはテコ入れなしってことなら……やっても意味無くないか? 斧使いドゴンド』 『確かに……お金があれば装備を整えるなんて造作でもないからね 剣士カズ』 『これは私の予想でしかないが、レベル制限をダンジョン以外にも付けるのではないか?そうでもしないと、それこそ新古の差ができてしまうぞ 槍使いシュベール』  しばらくチャットをした後、お昼時になったので一旦やめてパソコンを閉じ、下の階へ降りた。 ―ダイニング 「あら、一輝……ご飯なら今できたところよ。もう食べるの?」 「うん、だってここから中学校って結構遠いじゃん?バスとかも通ってないし、スクールバスの申請も出せてなかったから、早めに出ようかなって」 今日の一輝の昼ご飯は醤油で味付けしてある焼きうどんだった。一輝の幼い頃からの好物の一つで、醤油以外にもにんにくペーストや紅生姜が使われているので、そこまであっさりとした味ではないのが特徴だ。 「じゃ、いただきます」 病弱で少し内向的な部分が目立つ一輝だったが、食欲に関しては年頃の男の子よろしくかなりのものだった。ペロリと完食すると制服に袖を通し、そのまま家を出た。 ―通学路 海ヶ丘のもう一つの特徴は、年間通して寒暖の差こそはっきりしているものの、さほど寒くもなければ暑くもない気候のため、桜が咲く春はどこもかしこも桜を一目見ようとする人たちで賑わうのだ。 「雲はあれど、今日は晴れてる!桜もほぼ満開で……新しいスタートを切るにはちょうどいいな!」 不意に強く風が吹き、小中の共通通学路となっている河川敷の桜が散り、花吹雪を起こした。 無数に舞う花びらの向こうに、自分の通う中学と同じ制服を着た、栗色のショートヘアの少女が立っていた。彼女も新入生なのか、少しおどおどしていた。 「あ、あの……!もしかして、道に迷ってるの?もしそうだったら、僕が案内するから」 「えっ、あ……はい。でも……いいの、君だって新入生じゃ?」   「僕、一輝って言います。この辺はよく歩くし、今日は遅れないようにって早く家を出ただけだから……」 「わ、私は咲姫(さき)……えっと、それじゃあよろしくね……一輝くん」 (可愛い子だな……って、何見とれてるんだ僕!気をしっかり持つんだ!ここで少しでも頑張れば……友達増えて、上手くいくかもしれないから!) 一輝と咲姫は周りの桜を楽しみながら中学校へと向かった。風は先程よりかは弱まったが、それでもまだ桜吹雪が起きる程度には吹いていた。 「ねぇ、一輝くん……私達、クラス一緒だったらどうする?」 「えっ、あぁっ……な、仲良くできるんじゃないかな、もっと」 「そうだよね……もしそうだったらいいし、中学校最初の友達が男の子だってこと……とっても嬉しいよ……って、何言ってるんだろ私!い、今のは忘れて!」 咲姫は自分で大胆なことを言ったことに気づいた途端、一輝から目を逸らして顔を赤らめた。
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