N-01 再び始まる、輝ける物語

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N-01 再び始まる、輝ける物語

(3年前の今日、この街で密かに行われた新作ゲームのベータテスト。僕はそこで、リリスという女の子に会った。あの日から今日でそれだけの歳月が経ったんだと思うと、早かったような遅かったような……そんな気がした。そして今日は、高校の入学式……ではなく、初の授業日だ) 一輝はふぁぁっと大きなあくびをした後、眠たそうに目をこすりながらいつものように朝食を食べ始めた。 「一輝ったら……3年前からだいぶ変わったわよね。具体的に言うなら……元気になったところ!」 「もう母さんってば……いつまでも病弱じゃないんだからね、僕だって!」 一輝の母·紗夜(さよ)は、いつものように昔の彼のことを揚げ足にとってからかってきた。一輝は少しふて腐れて焼いた食パンを頬張った。 不意にインターホンの音が鳴った。鳴らしたのは、中学の時からの友人·咲姫だった。 「あらま、咲姫ちゃんじゃないの!今一輝ならご飯食べてるから、もう少しだけ待ってあげて!……一輝、咲姫ちゃん来たわよ!」 「うっそ、もう来たの!?……すぐ用意するよって、うわぁぁっ!」 一輝はかなり慌てて立ったせいで机に膝をぶつけ、そのまま倒れるときに椅子を巻き込んでしまった。 「全く、新学期から何してるんだか」 ―通学路 一輝たちは中高一貫校に通っていた事もあり、家からはどちらも割と距離があったが一時間もかかるわけではないのが唯一の救いだった。 「おはよう、一輝くん。ところで、どうして頭を押さえてるの?もしかして怪我とかしたの?」 「うん……さっき派手にコケて頭を打っちゃってさ。それで、たん瘤もできちゃってたから……こうして押さえてるってわけだよ」 「一輝くん、中学の時から少しだけおっちょこちょいなところあったもんね。あぁっ、もちろん悪い意味じゃないからね!」 (どんなふうに転んだかまでは言わないでおこう……) 未だにヒリヒリする頭のコブを冷やしながらこう考える一輝であった。 ―海ヶ丘高校1-E教室 (ま、まさかとは思ってたけど……また一輝くんと同じクラスになっちゃったぁ!て言うか、中学の時もこんな感じで新学期のクラス発表でドキドキしてたじゃん!少しは慣れてよ私!) 咲姫はまたしても一輝と同じクラスになったことに動揺し、それまで普通だった心拍数が急上昇した。さながら長距離走後並みの心拍数だった。 「また同じクラスだね、花園さん!中1以来だっけ?流石に席は隣じゃないけどね」 咲姫は一輝の言葉に対して心のどこかでしゅんとなった。 「おや、その顔立ち……君が星空一輝くんかい?」 「あ、はい……そうですけど、どちら様ですか?」 日本ではまずあり得ないだろう長い金髪の少女が話しかけてきた。その目は透き通った青色をしていた。 「酷いな、君は。私のこの顔に見覚えがないのか……ほら、あの時に私達は会っているはずだぞ?」 少女の言葉に少しだけ考え込んだあと、一輝は何かを思い出したかのようにこう答えた。 「もしかして……リリスさん、ですか?」 「ああ!はれて私も今日からここの学生だ。親の監視下じゃなくなるから、少しは羽を伸ばせるといいと思っていてね」 (な、何だろう……リリスさんの現実(こっち)での立場をあまり知らないからかもしれないけど、すごく礼儀正しい辺り親は相当すごい人なんだろうなってことは分かった) 「もちろん、私は1学生なのだから、皆にも級友として接してほしいと考えているんだ。もちろん、そこの女の子もね」 「えっ、私ですか……!?」 「そんなに身構えなくてもいいんですよ、花園さん。私のことは親しみを込めてリリスと呼んでくれると助かるな」 「じゃ、じゃあ私のことは咲姫って呼んでください!こちらこそ、よろしくお願いします!」 「い、一応僕の名前は知ってると思うけど……とりあえず今は一輝って呼んでよ。名字で呼ばれるとちょっとむず痒いって感じがするからさ」 「了解した。咲姫に一輝か……一輝は改めて、咲姫はこれからよろしく頼むよ」 三人は自己紹介を済ませ、自分の席に座った。出席番号順で座る関係上、一輝の席はほぼど真ん中だったため、日の光こそあたって暖かいが、寝ようにもねれなさそうな感じだった。 ―その後 「そう言えば一輝、今日はついに例のゲームが正式サービス開始となっているな。いつログインするつもりか教えてほしい」 「そうだね……帰って昼ごはん食べたりするから、最終的に何もしなくてもいい時間は夜になっちゃうかな」 「わっ、私も一緒しても……いいかな?」 咲姫もリリスと一輝がやる予定のゲーム〈ネクサス·ファンタジア〉を持っていたため、二人の話の間に入って自分もやりたいということを伝えた。 「花園さんも持ってるんだ!じゃあ、最初の街の噴水広場に集まろっか。できるだけ城へ続く道側にしようか」 「そうだな……人混みの中を探すよりは、ここである程度決めておいたほうが楽だからね」 「分かったよ、星空くん!」 三人はそれぞれ一旦家へと帰宅し、各々ダイブに向けた準備を進めていった。 ―一輝の家、彼の部屋 (まさか3年経って急にこうしてゲームサービスを始めるだなんて……まあ、いっか) 一輝はベッドで横になる前に枕元の〈ツインギア〉の電源をつけ、ヘッドセットを装着した。 「よし、行こう!もう一度僕らが輝けるはずの空へ!」 一輝はジュエリア大陸へのダイブを希望しつつ、そのまま仮眠状態へ入った。
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