ドラゴンはダンジョンに

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ドラゴンはダンジョンに

『選ばれしもの 大いなる白き門をくぐり 7つの青き柳を数える 茶の泉わきて現れ3つの歌声がめぐり響くとき 銀色の龍はめざめ新しい扉を開く』 そんな言い伝えがあるのを知るものは少ないが、この地が昔は「尾張」とよばれたのは、実は「古い時代を終わらせる龍がいる」からだという。 そんなヨタ話を先輩たちから聞かされた後のことだった。サークルの飲み会があって顧問を囲んで、飲んだり食べたりした夜のことだった。 ドラゴンとダンジョンといえば名古屋だわー。 なーにーぃ、しらんのぉ?それでよく名古屋に来たなもー。 まあ観光に来る人や、ちょっと名古屋のこと知ったかぶっとる人は モーニングだか名古屋飯だか、あんなもんばーっかが名古屋だとおもっとりゃーすけどよぉ。ホントの名古屋は、そんなもんじゃあらせんわ。 なんだかんだ延々と飲み続けているうちに、顧問が酔っぱらってきたらしく妙な話になってきた。先輩たちは慣れているのか、さっさといなくなってしまって顧問と残っているのは俺だけ。顧問の先生と飲むのは初めてだったから捕まってしまって「名古屋」の話を聞かされる羽目になってしまった。こんなことなら、1次会でさっさと帰ればよかったと後悔してももう遅い。なんだかんだと先生に飲まされ、寝てしまいそうになるのを、先生から背中をバシバシ叩かれて眠気もふっとぶ。しかもバリバリの名古屋弁で喋る顧問なので、それがまた脳みそを刺激するのか、妙に目がさえてくる。 別に名古屋に住むのにそんなことは知らんでもええけどよぉ。 せめて「しろくろまっちやあがりこーひーゆずさくら」は言えんといかんわー。これを言えばたいていのことは大目に見てもらえるでよぉ。わっはっはー。えか?おぼえときゃーよ「しろくろまっちゃ・・・」 どうも、その呪文みたいなのは名古屋では有名な「ういろ屋」のラインナップらしい。名古屋の人間ならだれでもいえるというのは本当なんだろうか。それを何回も復唱させられるわ、ちゃんと覚えたか言わされるわ。最後は腹をくくって、これはFFなんかのゲームの呪文だと思って覚えた。高校の化学の時も「すいへーりーべ、なんとかかんとか」っていうのは呪文だと思ってやったし、そういうのを覚えるのは割と得意な方だ。ラピュタの「りーてらとばりたうるす・・・」も復唱できるし、ナウシカの「そのもの青き衣をまといて・・・」も全文いえる。って、自慢というより痛いやつっていう感じになるから普段は言わないようにしている。 だから新しい呪文だと思って覚えたら、顧問は満足したのか寝てしまったので置いて帰ることにした。 帰るには名古屋駅の南の端まで歩いていってバスセンターからバスに乗る。それが一番、楽だからだ。バスセンターのすぐそばには巨大な白いマネキン人形が立ちはだかっている。ガンダムなんかないころから、ここに立っているらしい。たいていは季節の服を着ていたり着ぐるみを着ている。スターウォーズのチューバッカになってたこともあった。 なんとなくその下をくぐるのが好きで、友達や他の人がいないときは必ずマネキンの股くぐりをしていく。少し酔っぱらっていたせいか、顧問の先生に聞かされたばかりの呪文をぶつぶつつぶやきながら。 「しろくろまっちゃ、あがりこーひーゆずさくら。しろくろまっちゃ・・・」
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