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家庭科室の殺人
七尾珊瑚が自殺したのも、今日の様なうららかな春の日だったっけ。
私、紅鳶小鷹は紅茶に砂糖をティースプーン二杯入れ、物思いにふけりながらそっとかき混ぜた。
それからの日々はあっけなく過ぎた。
けれど春を迎えるたび、もやもやしてしまう。
庭ではソメイヨシノがそしらぬ顔で、惜しげもなく薄ピンクの花びらを風に散らしている。
瀟洒なキッチンは柔らかな4月の午後の陽光と、白花姉妹の弾むようなおしゃべりで満ちていた。
「雷花ちゃん、水花ちゃんおまたせ。アフタヌーンティーの準備できたから」
純白のテーブルクロスを敷いた、マホガニー製円卓へ歩み寄る。
そっとティーカップ3つと、焦げ気味の黒いクッキーを並べた。
白花姉妹の下校時間に合わせ、三人でお茶を嗜む。
いつしか始まった、白花姉妹との大事な日課だ。
海外出張の多い姉夫婦の留守番役として、妹の私が白花邸に転がりこんで数カ月。
二人の子どもの世話係らしい役割も、我ながら少しは板についてきたのではないだろうか。
「紅茶に砂糖が多すぎるぞ小鷹女史。甘いものは嫌いだ」
ローファーのつま先で軽くすねを蹴られ、思わず悶絶してしまう。
見ると水花ちゃんの不満気な視線と、バッティングしてしまった。
白花水花はおろしたての春用制服が可愛らしい、若竹中学の一年生。
小柄な体型と漆黒のショートヘアは、まるでお人形さんのよう。
言うべきことははっきり口にする、中々のしっかり者。
20代の私ではあるが世話係として、何度ドキッとさせられたことか。
「小鷹さん、こちらは無糖のままですわ。いつも甘めの紅茶を所望していますのに」
白花雷花は若竹中学の三年生。
長身と艶々に手入れされたダークブラウンの髪は、水花と正反対にお姉さん然としている。
常に丁寧な物腰を崩さず、子どもっぽさを感じさせない気品の持ち主だ。
家事や掃除の失敗を、上手にフォローしてくれることもしばしば。
これではどちらが世話係だか分かったものでは無い。
「おかしいわね。雷花ちゃんの紅茶は確かに、お砂糖二杯入れたはずなのに」
「逆だ逆。渡すカップを間違えたんだろう、そそっかしい」
「ごめんね水花ちゃん。すぐ淹れ直すから」
ぷりぷり怒る水花に叱られながら、私は二人分のカップを回収した。
「珍しいですわね。小鷹さんが紅茶を淹れ間違えるなんて」
「そういえば家に帰ってきた時、庭の桜をぼんやり見つめていたな。ぼんやりはいつものことだが」
「もしかして青春の甘酸っぱい思い出を、回想していたのかもしれません」
「がさつな小鷹女史に限ってあるわけないだろう」
「まあ水花。本当のことでも言っていいことと、いけないことがありますのよ」
このっ、言わせておけば!
拳を振り上げるジェスチャーをすると、姉妹はきゃあきゃあ笑い声を上げた。
「それで結局、桜に思うところでもあったのか?」
「高校生の春にちょっとした事件に巻き込まれてね。ティータイムの話題には、少し刺激が強いかも」
「苦い思い出というやつか? ちょうど良いではないか。誰かさんのせいで、口の中が甘ったるくて仕方が無いところだ」
にやにやと水花が意地悪そうに口角を上げる。
雷花も熱いアールグレイを満足気にすすりつつ、こくこくうなずいている。
どうやら逃げ場はないらしい。
「気持ちのいい話じゃないからね? 結論から言うと、親友が自殺したの――」
親友の珊瑚が古文教師の寺河浩嗣とデキているのは、クラス内で公然の秘密だったの。
三十過ぎで存在感も薄く、うだつの上がらない先生のどこが良かったのやら。
禁断の愛を応援したいという者。
テスト問題が陰険なので、さっさと結婚して出て行けという者。
大学推薦枠に響くとまずいから、そっとしておこうという者。
思惑は様々でも学校に通告しようなどと、野暮な行為をするクラスメイトは皆無。
なんだかんだ、まとまりのあるクラスだったわけね。
珊瑚の死体を見つけたのは、用務員のおじさんだった。
体育館裏から公道へ、木の枝が伸びすぎていたのね。
それを伐採しに行った折、制服姿で倒れている珊瑚を発見。
すぐにけたたましいサイレンを鳴らし、パトカーが校庭へ進入。
学年主任が授業中の担任を廊下へ連れ出し、私達に自習を申し渡した。
その間もパトカーは続々増えるし、もう学校中大騒ぎだった。
ここから先は若い刑事をつかまえ、延々粘って聞きだした話。
死因は農薬の服用による中毒死。
入手経路の特定は容易だった。
高校周辺には畑も多くて、一軒の荒れ果てた納屋があった。
そこに放置されていた農薬の成分が、珊瑚の体内から検出された物と一致。
毒性が強いため、現在では製造中止になっているんだって。
珊瑚はもちろん、誰にでも少量盗みだす機会はあったはずよね。
主に三つの根拠から、警察は自殺と結論づけた。
①争った形跡がないこと。
②農薬は苦みの強いタイプだったこと。
③死体発見現場が思い出の場所であったこと。
まず他殺と考えた場合、争った形跡が無いのは不自然。
無理やり農薬を飲ませるには、口を開かせる必要があるでしょ。
必然的に着衣の乱れや、抵抗した時の擦過傷ができたはず。
警察の捜査では、そういった形跡が認められなかった。
次に毒殺を考えるなら、相手に警戒されてはいけない。
無味無臭の毒物を使おうとするのが、犯人の心理というもの。
しかし農薬は苦みのあるタイプだった。
だから自らの意思で飲んだ可能性が、高いとみなされた。
最後に寺河先生への事情聴取により、珊瑚との恋愛関係が発覚。
告白を受け、人目を忍んでは逢引きしていた場所。
それが体育館裏だった。
人は自殺時に仏壇、墓前、思い出の場所で決行するそうよ。
実は警察も最初は他殺の線を追っていたの。
検死の結果、放課後にも関わらず大量の食事を取ったことが判明。
胃の内容物は、学食のメニューとも食い違った。
ちなみにお昼は教室で、私とコンビニパンを食べていたの。
つまり死の直前、校内で食事をする機会があったということ。
農薬が混入されたとすれば、そこの可能性が高いと考えられた。
5人の容疑者まで絞ったものの、証拠が不十分だったらしい。
くれぐれも内密にと念を押す刑事さんの話を聞いて、私はハッとした。
葬儀を終えて、ご両親にお会いする機会を得たんだけど。
遺書は発見されなかったんだって。
また私は珊瑚に旅行のため、新幹線と宿の予約を頼んでいたの。
ゴールデンウィークに、二人で旅行へ出る予定だったから。
鉄道会社と宿に電話してみると、死のわずか2日前に予約を受け付けていた。
自殺するなら旅行の予約なんか、普通しないでしょう。
納得いかない私は、5人の容疑者の調査を始めたの。
最初に寺河先生との面談にこぎつけた。
古文の質問という体を装い、人目がある職員室からおびきだすことは忘れなかった。
「事件の前日、先生は放課後に家庭科室で珊瑚といたそうですね」
「紅鳶、おまえ誰からそんなことを!」
「鍵貸出簿を閲覧してきました。ですが名簿に先生の署名は見当たらなかった。家庭科室の鍵を、こっそり持ち出したということですね。さあ、どうして人目を避ける必要があったのか。死の前日に珊瑚と何があったのか。教えて下さい」
他人に迷惑がかかるから他言は一切無用、との条件で渋々答えてくれたわ
。
「記念パーティーを開いていたのだ。あの日は珊瑚と付き合い始めて、ちょうど一年目になる。だから珊瑚の友人が企画し、料理をふるまってくれることになった」
「それだけの理由で鍵の無断借用を?」
「各教室の鍵は部活顧問と部員なら、自由に持ち出すことが認められている。例えば自分は調理部顧問だから、記帳は不要だ。別に隠していたわけではないぞ」
少し拍子抜けでがっかりしたわ。
ともかく二人で家庭科室に移動したの。
参加者を一人ずつ呼び出して貰い、当時の状況を聞きだすために。
部屋には大きな流し台が一つと、6人がけの調理台兼テーブルが6つある。
ガスコンロは各調理台に一つしかついていない。
食器や調理器具は棚に一通り揃っている。
「あの時は一人一品作るため、調理台を一人ずつ割り振ることができた」
「途中で家庭科室を出入りした人は?」
「一時間ほどいたが、誰も外に出ない。部外者は入ってこなかった」
「料理を食べたのは誰ですか?」
「珊瑚と自分だ」
「誰かが人の料理を手伝うなどの理由で、机を離れましたか」
「いいや、全員熱中して一度も離れなかった」
「間違いありませんか」
「生徒の行動を監督することが顧問の役目だ。火と刃物を使っているわけだからな。それに料理ができるまでの間、生徒を見ている他にやることもないだろう」
つまり他人の料理に農薬を混入させる機会は、なかったということ。
犯人が農薬を仕込んだのは、自身の料理なのだ。
「先生は何を作ったのですか?」
「桜餅だよ。珊瑚は甘いものが好きだったから」
「凝った料理ですね。料理上手だから調理部の顧問に?」
「実は料理は全く苦手でね。桜餅だって子ども時代、祖母に厳しく仕込まれていやいや覚えただけさ」
先生が退出した後、クラスメイトの西口優香がやってきた。
バスケ部のマネージャーで、いつも男子部員にチヤホヤされていたわね。
「こっちは部活の時間削って来てるからさ。手短に終わらせてよね」
「優香は女子陸上部の部長よね。ソフトボール部の珊瑚とは仲良しだったの?」
「別に好きじゃないよ。後輩に打球がぶつかって、怪我したことがあるから」
「じゃあパーティー断ればよかったのに」
「男子陸上部キャプテンの、山上先輩が来るでしょ。だから料理でいいとこ見せたら、お近づきになれるかと思って」
「優香は何を作ったの?」
「豚肉の生姜焼き。親の作る見よう見まねだけど。市販の生姜焼きの素に漬けた肉を、焼くだけでいいし」
「パーティーで気付いたこととか、変わったことはなかった?」
「山上先輩ったら、七尾のことばかりじろじろ見てんの。亡くなった子の悪口じゃないけど、あんな奴のどこがいいのかな」
次に来たのは山上智久。
中学時代に大ヒットした青春ドラマがあってね。
あの主人公に似た爽やかな男子だったわ。
「普段は料理しねえよ。ネットで調べた炊き込みご飯を作った。米と調味料と具材をごちゃまぜにして、スイッチ押すだけですむからな」
「パーティーには誰から正体されましたか?」
「二年の州崎だよ。弟が陸上部で俺の後輩に当たるから、顔は知ってた」
「珊瑚とは仲良かったんですか?」
「練習後にグラウンドで、ちょい話す程度だ。顔がいいから気にはなってた。でも来てみたら、寺河とイイ感じって噂は本当らしいし。あんな年上好きだなんて、一気に冷めたな」
「パーティーで何か変わったことはありませんでしたか?」
「特にないかな。しかし学校側も食器用スポンジは、人数分置いといて欲しいよな。前回の調理実習では、確か各テーブルに一個備え付けてあったのに。あの時は一個を全員で使い回すから、余計な時間がかかったぜ」
次に来たのは州崎凛子。
同級生だけど、どんな子かはあまり知らない。
怪我で保健室に行くと対応してくれたから、たぶん保健委員ね。
「珊瑚とは去年の冬のテストまで、よく勉強を教え合っていたよ。私は化学部員だから化学担当。珊瑚はホームステイ経験があるから英語担当」
「じゃあ仲良しだったのね」
「実はお互い口をきかないほど大喧嘩してさ。珊瑚に教えられたスペルが、テストで間違ってたの。以来ほぼ会話は無かったね」
「陸上部の山上先輩を誘ったのは州崎さんだって?」
「人選もパーティーの主催者も全部私がやったの。口の軽い人を招待するとまずいからさ」
「喧嘩中なのにお祝いパーティーを? ずいぶんな心の変わりようね」
「まあ受験勉強を前に、いつまでももやもやしたくないし。どうせなら仲直りの印として、派手にやろうと思ったわけ」
「作った料理は?」
「コールスローサラダ。家がIHコンロで、ガスの火加減に慣れてなくてさ。サラダなら丁寧に切る自信あるし。ドレッシングも分量通りに作れば、失敗はありえないでしょ」
「パーティーの途中で、なにか気付いたこととかある?」
「個人的なことでもいい? 珊瑚と先生が帰るとスポンジを回しあって、各自で食器洗いをしたの。家に帰ってなんかかゆいと思ったらびっくり。手が少しかぶれて赤くなってたんだ。家庭科室の洗剤は家と同じだから、手荒れはしないはずなのに」
記念パーティー最後のメンバーが三浦多紀。
たまに全校朝礼で名前を呼ばれては、表彰されている先輩。
間近で顔を合わせて話すのは、もちろん初めてね。
「州崎が調理部の部員を、メンバーに一人は欲しがっていたから。料理の腕は常に磨いておくべき。だから副部長の私直々に参加を決めた」
「副部長ということは、料理もさぞお得意でしょうね」
「もちろんだ。高校調理コンテストで昨年も入賞した。パーティーでは豚汁を作った。具だくさんで作りがいがある上、腹もふくれると考えた」
「当日に何か、変わったことはありませんでしたか?」
「悪いが料理の最中は集中しているから。他に気を散らす余裕がなかった」
「――あの日以来、春を迎えるたび事件を思い出すのよね」
白花姉妹は神妙な顔つきで、クッキーを頬張っている。
やがてお互いに顔を見合わせ、悪だくみを思いついたかのように、くすくす笑い始めた。
すぐにいたずらっこのような顔で、雷花が猫なで声を出す。
「わたくし達の能力を使ってみませんこと?」
白花姉妹は不思議な力を持っている。
父親が外国人のサイキック捜査官なので、しっかり血を受け継いだようだ。
これまで姉妹の力に助けられたことが、何度かあったので疑うべくもない。
しかし二人は面白いとみれば、例え危険なことでも首を突っ込みたがる性格。
世話係としては一応、釘をさしておくべきだろう。
「じゃあお願いしようかな。でも約束して。決して無理はしないこと」
「分かっているとも。では珊瑚さんに縁のある物を貸してもらおう」
「家庭科室での集合写真でいい? 手帳に挟んで持ち歩いているから、ちょっと擦れてるけど」
「その程度問題ない」
慣れた様子で水花は、親指と人差し指で写真をつまむ。
表側をおでこに当て、ゆっくりと目を閉じた。
水花の能力はサイコメトリー。
写真から関係者たちの残留思念を、読み取ろうというのだ。
「こちらも始めさせていただきます」
雷花のほっそりした手には、最新の薄型タブレットが。
ペイントアプリのアイコンをタッチし、真っ白い画面を起動させた。
念写能力で手掛かりとなる光景を、描き出そうと試みている。
ほどなくして画面へ、じわじわと染みだすように画像の輪郭が現れ始めた。
その時水花の手から、写真がぱさりと床に落ちた。
「水花ちゃん大丈夫? ちょっと呼吸が浅いみたい」
「少し驚いただけだ。あまりに強い嫉妬の感情が、流れ込んできたから」
「嫉妬か。殺害の動機にはなりえるよね。問題はその感情が、珊瑚に対してか寺河先生に対してか」
「待ってくれ、殺意を感じたとは言っていない」
「とすると犯人は、殺害の意図までは無かった。懲らしめてやろう、程度のはずが予想に反して死んでしまったということね」
「犯人は盗みだした農薬に、無知だったのだろう。もし製造中止になるほど、毒性が強いと知っていればあるいは」
「珊瑚は死なずに済んだかもしれない。ところで雷花ちゃん、その画像は?」
タブレットには古びた本の画像が浮かび上がっていた。
「子育て疑問集という本のようですわ」
「それが事件にどう関係するの?」
「一つ分かることは、うちの本棚が念写で現れたということ。とにかく本を探してみませんこと?」
白花邸の本棚は床から天井まで続く、巨大なスライド式だった。
地下室には収まりきらない本が、山とあるというから恐ろしい。
地方の小さな図書館であれば、蔵書数で優に張り合えるだろう。
幸いにも開架されている本は、ほとんどが洋書。
日本語の背表紙を見つけるのは容易だった。
「もくじから読んでいくわよ。予防接種、夜泣き、急病……薬の飲ませ方!」
そわそわしている姉妹にも見られるよう、本を床に広げる。
「小児に薬を飲ませるのは大変。ゼリー状オブラートの使用が有効。アイスクリームやチョコなど、苦みを感じにくい食品に混ぜる手段もある」
それを聞いて雷花がふふっと笑う。
「水花の甘いもの嫌いも案外、ここからきているのかもしれませんわね」
「ま、まさかそんな。小鷹女史、笑ってないで続けてくれ」
じろりと水花に睨まれ、どうにか頬が緩むのを抑えた。
「同様に味噌汁を使用することもできる。たんぱく質は苦みを消す作用があるためだ」
「つまり犯人は豚汁を作った三浦多紀か」
水花が大きく目を見開いてつぶやく。
「調理部副部長にして、コンテストで入賞するほどの腕前。たんぱく質で農薬の苦みを消すとは。なるほど彼女らしい発想ね」
「農薬が使われた根拠はそれだけか?」
「州崎が食器を洗った後、手がかぶれたでしょ。スポンジに洗い残しの農薬が、付着していた証拠よ。農薬は本来グローブや眼鏡など、保護具を使って散布するものなの」
「家庭科室にスポンジが、一つしか無かったのはなぜだ?」
「三浦がわざと捨てておいたのよ。人数分スポンジがあれば、万が一調べられた時に自分の席のスポンジから、農薬が検出されるかもしれないでしょ。顧問の寺河先生の他、家庭科室へ自由に出入りできるのは、副部長の彼女だけよ」
「珊瑚はどうして体育館裏で倒れていたんだ?」
「朦朧とする意識の中、思い出の場所へ向かい力尽きたのね。そこへ行けば先生に助けてもらえると信じて」
はぁぁ、と大きくため息をついて、私はぬるくなった紅茶を一気に飲み下した。
「まさか三浦が先生に横恋慕してたとは。やっぱり珊瑚は、自殺なんかしなかったんだ。二人ともありがとう。胸のつかえがとれてすっきりしたわ。今年からは春を満喫できそう」
小さな頭をなでると雷花は嬉しそうに、水花は照れくさそうにほほ笑んだ。
「小鷹さんの苦い思い出が消えてなによりですわ」
「苦いと言えば、あの黒焦げのクッキー。いったいいつになれば、上達するんだ?」
くどくど小言を並べ始めた水花に、私は苦笑いを返すしかなかった。
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