1人が本棚に入れています
本棚に追加
(そうだね。思い残すこと無くなっちゃから)
「その、すまんな、最後が俺で」
(いいよ。 あなただから、こうして好き勝手させてくれた)
彼女の気配が薄くなっていく。 この明かりのない空間で、光の粒子が集まりだし、人の輪郭を創り出していく。
「人生、楽しかったか?」
(凄く! で、この二日間も楽しかった!)
そうか、そうだよな。 わかり切っていた。
まさか、幽霊に気づかされるなんて想像もしていなかったよ。
(それで? 死ぬの?)
また、あの日と同じ口調で聞いてくる。
「わからなくなった。とりあえず、緩まない縄の結び方から調べなおすよ」
(そっか、それじゃあ、もう一つだけお節介だと思って聞いて)
なんだ? どんどんと声は遠のき、先ほどまで集まっていた光の粒子も、消えつつある。
(壁の穴、なおしておいてね♪)
「は⁉」
まさか、それだけを伝えると、完全に気配がなくなった。
俺は大きなため息をつき、仕方が無いので、穴に向かう。
ボリボリと整った髪を掻きながら向かう、すると、そこにはまだ何かがあった。
「ん?」
手を伸ばして掴んでみる。
カサっと、乾いた紙の音が聞こえてきた。
少し膨れた茶封筒が数個出てくる。
「はは、ほんと、情けねぇなぁ俺は、お節介ありがたく借りておくよ。ぜったい、返すからな」
その場で、借用書を書き判子を捺すと、相手の捺印の場所に、どこから入ってきたのか小さな綿毛が一つ落ちて来た。
最初のコメントを投稿しよう!