同室の幽霊ちゃん

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 ぼさぼさの髪を乱雑に切り、床に髪の毛が舞う。  部屋着から、スーツに着替え、椅子を持ってきた。  高さの調節は間違いない。 さて、逝こうか。  ロープを手に取り、顔に近づけていく。   (あぁ、もう少しだけまともな人生送りたかったな)  あまりの自分の馬鹿さ加減に飽きれ、軽くため息をついてしまう。 「ねぇ、死ぬの?」  どこからか声が聞こえて来た。 しかも女性だ。 女性恐怖症に陥っている俺にとっては、耳が裂けそうなほど嫌な声。  きっと幻聴だろう。 しかし、妙にリアルだ。  「ねぇ? 死ぬの?」  もう一度問いかけられる。 うるさいな! 今から人が死ぬっていうときに。  俺は目を見開いて言葉を返した。 「あぁ! 死ぬんだよ! 文句あるか!」 「あっそう」  実に簡素な返事が返ってくる。 「あっそうじゃねぇだろ! 死ぬ覚悟できているんだってこっちは、邪魔するんじゃねぇよ!」  イライラしてくる。 これが幻聴でないなら、地獄からの声に違いない。 「ねぇねぇ、死ぬならね」  まただ、今度はなんだよ? まだ何か聞きたいのか? 「その命、二日でいいから私に預けてくれない?」 「は?」  思わず言葉がでてしまった。 それに、先ほどよりも声が近くに感じられる。 「ねぇ、その命、少しでいいの、私に貸してくれない?」  後ろを振り返っても誰もいない。 しかし、確実に誰かが近くにいる。 「おいおい、地獄からのお迎えってか⁉」 「もう! そんなことどうでもいいから、貸すの貸さないの⁉」  なんだか、相手もイライラしてきている。  ふ、こっちの邪魔しやがって、死ぬ覚悟がどこかに飛んでいってしまった。  随分と軽い覚悟だったのだなと、今になって思った。 「いいぜ、ただし二日だ。 二日だからな!」  どうせ、お金がないのだ。 いずれ黙っていても野垂れ死んでしまう。  消えていく灯ならば、三日程度得体の知れない存在に貸したところで、誰も困らないであろう。 「やった――! じゃぁ、借りるね♪」 「あぁ、いいとも、無利子で貸してやる」  その言葉を発した瞬間、体に何かが入ってくるのがわかった。  そして、俺の意識は遠く、深く、暗い世界へと沈んでいく。  
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