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さてと、うるさい人は聞こえなくした。
聞こえなくしただけで、こちらの声や行動は筒抜けだから、たぶん今頃騒ぎ立ているだろうけど、特にきにしない。
てくてくと不慣れな歩行で洗面所まで歩いて行く。
場所は把握していた。 なんてたって、ここに住み着いてから十……。
「はぁ、数えるのやめとこ」
あまり悪さはしてこなかったので、物件としては上々、うまく大家さんが隠してくれたので、入居者は絶えなかった。
しかし、ここ数年は老朽化により、めっきり人が来ない。
久しぶりに来たのが、この冴えない人で、観察していてもこれっぽちも面白みがなかったが、詐欺にあい無一文になった。
洗面化粧台に取り付けられた鏡を見る。
私では無かった。 当たり前だが、そこには数年観察を続けてきた人が映っている。
パッとしない。 ダラダラとした雰囲気を垂れ流している人だ。
「さて、やっちゃうかなぁ!」
ツカツカと歩き、エッチな本とDVDを隠しているタンスを開け、それらを全て外に放り投げた。
ドンドンと奥底で暴れているが、無視だ無視。
何も無くなったタンスの奥にある壁をコンコンとノックしていく。
すると、明らかに異質な音がする場所を見つけた。
「ふふふ、よかったぁ! 誰にもとられてない」
私はその場所を壊すために、工具を持ち出して一気に壁を引きはがすと、一枚の茶封筒がでてくる。
「いや、これやった自分を褒めるよね。うん、よく隠したよ当時」
封筒の中身を取り出してみると、ひと昔前のお札が何枚も出てくる。
私のヘソクリだ。 ボーナス一回分をコッソリ隠したが、あまりにも精工に隠したため、この世にいなくなってからも誰にも発見されることなく今を迎えた。
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