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エントランスから外に出れば夜の冷気が顔を刺す。
きょろきょろとあたりを見回した龍也は思ったより早く探しものを見つけて思わず笑みをこぼした。
「こんな所で何やってるんだ?優斗」
「・・・騙すようなことをしてすみませんでした」
マンションの前に植えられた大きな花壇の淵に腰をおろして項垂れる男の普段は見ることのないつむじを見下ろしながら龍也はこれ見よがしに大きなため息をつく。
「俺が本気でお前の嘘に気づいていなかったとでも思ってるのか?」
「・・・気づいていたんですか?」
ばっと顔を上げた優斗にふっと笑んで、その髪をくしゃくしゃと撫でまわす。
「気づいてて知らないふりとか、性格悪いですよ。龍也さん」
優斗が降参です、というように肩をすくめた。
「そう言う優斗こそ、なんでこんなマンションの真ん前で待ってるん
だ?・・・明らかに俺が追いかけてくること分かってただろ。性格悪い」
龍也の言葉にははっと笑って優斗はプランターから立ち上がると、龍也の体を抱きしめる。
「正直あなたが俺を追いかけてきてくれるとは思ってなかったです。でも、追いかけてきてほしいと思ってました」
素直な言葉に顔が熱くなる。純粋で裏表のない優斗がずっと好きだった。龍也は優斗の背にそっと腕をまわす。
「暖かい」
ほっと息をつく龍也を優斗はさらに強くかき抱く。
「これからは俺が兄貴の代わりにあなたを守ります。あなたを幸せにして見せます」
だから、俺と付き合ってもらえますか、その言葉に龍也の顔は堪らずほころぶ。そして返事の代わりに軽く背伸びをして優斗の唇に口づけた。
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