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「お金がないって言う人ほど、お金に困ってないよね」
「え? なんで?」
「例えば私とあなたみたいにこうしてお店でご飯を食べてる時に、あなたが『俺お金ないんだよねぇ』と言うとするじゃん? そしたら私は『じゃあここは払っとくね』って言うしかないじゃん?」
「うん」
「そしたらあなたはお金を払わなくていいわけじゃん?」
「うん」
「ほら。お金持ってない方がお金に困らないじゃん」
「うん」
「今日お金持ってる?」
「持ってないよ」
「私も」
「え?」
「そう言われると思って、今日は私もお金持ってない」
「え」
そう言って彼女はパスタをずるずると啜った。
俺もパスタをずるずると啜ってスープを飲んだ。
さて、これからどうしたものか。
とりあえず会計の時に「ごめんなさい。お金ないです」とでも言ってみるか。
俺はこれまでずっとそうしてきた。
資本主義社会に於いてお金は絶対的な価値を持っている。
そんな社会で、お金がない。
それはつまり、失うものは何もないということだ。
何も持たない者は、強い。
お金を使いきれない程に持つ者は確かに最強だろうが、お金がない者は逆に無敵なのだ。
と、俺は(無根拠に)思っている。
だから大丈夫だ。今回もなんとかなる。
……そう思っていたけど、なんとこのお店は悪いやつらが経営していて俺は代金の代わりに内臓を色々取られた(内臓は結構高いらしいので彼女は何も払わずに済んだ。ちなみにその後めちゃくちゃ殴られてフラれた)。
やれやれ。とはいえ、こうなると逆にラッキーだ。
俺にはもう何の価値をない。
価値のあるものを殆ど全てを失ったことで、俺から何かを奪える者はいなくなった!
俺は真の無敵となったのだ!
この事実に、テンションがどんどん上がっていく。
すると不思議と腹が減ってきた。
内臓はないけど腹が減るとは。なんだか面白い。
さてさて、そこら辺のお店に入って、何か食べるとしよう。
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