そして光が

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 明日地球が滅びますと言われて、滅んで、それで終わりだと思っていたのに、それから私達の意識だけが残るなんて、一体誰に予想出来ただろうか?  小惑星の激突で粉々になった地球。ビルが吹き飛び、海が舞い踊り、雲は散り散りになり、マグマが暴れ、大地が太陽の光を遮っている。  意識だけ——つまりは幽霊的なものとも言える存在——になった私は、その様子を眺めている。  最初はびっくりした。  今はもう見慣れた。  一体いつになれば地球の全てが視界から消えるのか。  あれから何日? 何年? いや何千年? 時間の感覚が曖昧だ。流れる時間を数えていなかったせいだが、太陽の動きもわからないのであれからどれだけの日々が過ぎて行ったかなんてきっと偉い学者さんでもわからないだろう。  UFOも通った。驚いたが、最初だけだ。見飽きてしまった。  きっと他の人類もみんな意識だけになっていると思うのだが、意識同士でのコミュニケーションは出来ないのでわからない。もしかしたら私だけが観測者として地球の最後を記憶する為に残されたのかもしれない。  ……なんて。そんな物語の主人公みたいな妄想をした時期もあったけど、今はただただ、早く消えてなくなりたい。この連続する意識の流れから解き放たれたい。  たった一人の私はそう思った。 *  円盤型飛行物体に乗っている毛玉みたいにもこもこした宇宙人が砕けた地球を見ながら言った。 「面白いケースですよ、これは。滅びに際して地球人類の生きたいという意識が統合されたようです。地球を観測しているのは人類の意識の総体です。やはり脳機能が高度に発達して自我を獲得した生物種の精神の働きは実に興味深い! これからも彼らの観測を続けましょう!」 *  それが観測出来た。  私は一人ではなかったのだ!  それを意識した途端、私は私の中に無数の私が存在するのを感じた。  そして無数の私が無数の精神的な喜びの声を上げ、無数の精神的な歓喜の涙を流すのを感じた。  地球は滅びたが、全人類の意識は存在する。  それは何故?  私達は何故存在するのか?  宇宙人は私達を生きたいという意識が統合された存在と定義したが、生きるという事はただ生きるという事ではない。  生には目的が必要だ。  存在には目的が必要だ。  私達は私達として何をするべきなのか?  私達はそれについて様々な議論をした。長い月日が流れた。  そして議論の結果、私達は旅に出る事にした。  様々な事象を観測しよう。私達は肉体を失い物質的な干渉手段を失った。これは観測するだけの存在への進化と捉える。  生きるという事は、受け継いでいくという事。しかし私達は次に繋げる事が出来ない。とはいえ、あくまでそれは現時点での話だ。  私達の——これまでの、そしてこれからの——膨大な記録(レコード)を継いでくれる存在はいつか必ず誕生する。確信がある。宇宙人だって初期の私達を観測出来ていたのだ。この宇宙に必ず現れる。宇宙の全てを知ろうとする者が。  だからそのような存在が生まれるまで、私達は宇宙の全てを観測し、記録する。それが私達の役目。  自らをそう定義した私達は、観測者としての役目を全うする為に、暗黒の空間から飛び立った。  次に私達が見たのは、光の爆発だった。
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