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【斎藤奏汰視点】2
ただいつも話しかける勇気もなく相馬を見ていた。
お見合いを終えてからも何度か相馬の姿を目にしたが、話しかけることはできず、当然向こうが僕に話しかけてくることもなく、うなだれる。そんな頃、同じゼミの女の子に悪がらみされているところに突然やってきた相馬の姿に僕は一瞬夢でも見ているのかと思った。
けれど友人に相馬との関係を問われて言いよどむ僕を遮るように間髪入れず「友人です」と言い切る相馬に少しがっかりしながらも、それでも久しぶりの相馬は可愛くて、かっこよくて、会えた嬉しさが何より上回った。
この期を逃したらもう二度としゃべれないかもしれない、そんな思いが頭をよぎる。僕はなんとかして相馬を引き留める理由を考えて、ふと財布に入れていた映画のチケットを取り出す。
「これ、見たかったやつだ」
見るからにテンションを上げた相馬が顔を輝かせて僕を見上げる。まるで子供みたいな無邪気さに思わず顔がほころぶ。
どんな顔もどんな表情も知れば知るほど好きになる。
真っ暗な映画館内、映画の明かりに照らされる相馬の横顔を何度も盗み見た。
手の届く距離に置かれた彼の手を今なら握ってもいいのだろうか、なんて。結局最後まで握ることはできず、緊張やらなにやらで異様に汗をかいた。
映画を見終わり母親に夜ご飯はいらないこと、少し遅くなることをラインすると、察しのいい母親は「頑張れー」っていうクマの可愛いスタンプを送り返してきた。「誰?」トイレから戻ってきた相馬は僕に尋ねる。さすがに母親だと答えるのもクマのスタンプを見せるのも恥ずかしくて、「友達」と答えた。そう、相馬はそれ以上深くは聞いてこなかった。ただ、それからしばらく相馬は無言だった。
もともとコミュニケーション能力が高いわけではない。いつも相馬が話題を振ってくれるから話せるだけで、こんな時どうしたらいいのかわからない。
「相馬君?なんか、怒ってる?」
様子をうかがい、そわそわしている僕がそう切り出したのは10分ほどして。
僕の言葉に相馬は力なく笑った。
「俺の問題だから。気にすんな」
相馬のその言葉はまるで一線をひかれているような気がした。これ以上聞いてくるな、お前には関係ないと言われている気がして、僕はそれ以上何も聞けなくなった。
これを世でいうデートというのなら、僕の人生初めてのデートはおそらく失敗だった。
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