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【斎藤奏汰視点】3
初デートの日、相馬に交換してもらったラインはあの日以来動かない。
動くことのないライン画面を見つめ食堂でうなだれる僕を他所に周囲が一瞬ざわめく。
「王子だあ、今日は姫一緒じゃないのかな」
噂の中心には大学の王子、佐々木 忍。僕の目から見ても申し分ないくらいにかっこよくて、きっと彼なら自分の様に相馬を怒らせたりしないんだろうなと思った。
今まで学園の王子と張り合うことすらおこがましいと思っていたのに、自分と彼を無意識に比較している自分がいる。敵わないとわかっているのに。
「ねえ、ここ座っていいかな?」
「どうぞ」
突然声を掛けられ条件反射でそう返しつつその人物の顔を確認し、驚く。
目の前に腰を下ろしたのは皆の注目を一身にあびる張本人、王子その人だったから。居心地悪く感じた僕が席を立とうとするのを止めるように彼が僕に声をかける。
「斎藤 奏汰君、だよね」
名前を知られていたことに驚き、思わず返事が遅れる。姿勢を正して座りなおした。
「なんか思ってたイメージと違ったな」
不思議そうに首をかしげる彼のなかで僕はどんなイメージで、実際はどうだったのだろう。
「ほら、相馬からお見合いの時の話とか、先日のデートの話とか聞いてさ」
「え・・・相馬君の口から聞いたんですか?」
「何か問題でも?」
自分と相馬の関係は王子に公認の間柄なのか。いや、公認じゃないからわざわざ王子本人が出向いてお灸をすえにきたのか。手を引かせにきたのか。
「単刀直入にいうけどさ、半端な気持ちで相馬に手出さないでくれる?」
「半端な気持ち?」
「だってそうでしょ、他に好きな人がいて相馬にも思わせぶりなことして、どういう神経してんの?」
「ほかに好きな人・・・?」
「食堂で騒いでたんでしょ、好きな人がいるって。しかも相馬とのデート中にその相手とラインしてにやにやしてるってあんたおかしいよ」
「いや、え、いや」
「相馬が許しても俺は許さない、相馬にあんたはふさわしくない」
ヒートアップする王子に飲まれて何も答えられない。僕自身も混乱していた。自分は一体なぜ彼に責められているのか、付き合っていることを咎められると思っていたのに、彼の言い分は僕が思うよりずれていて、そしてその内容は全くもって身に覚えがないのだ。
「知らないでしょ、ここ数日何度も君とのラインを開いて文字を打っては消して。嫌われたらどうしようって泣くんだ。自分が感じ悪い態度取ったから君からラインが来ないんだって、どうしたらいいのかわからないって」
その言葉に目を見開く。まるでここ数日の自分のことを言われているのかと思った。文字盤になれない操作で文面を打っては消してを繰り返して。こうしている間に相馬からの連絡府が来ないかと待って。
「いいか、金輪際相馬に近づくなよ」
「・・・嫌だ」
王子の言葉にようやく声が出る。きっと睨み返して僕は声を張る。
「僕は相馬君が好きだ、だから相馬君から別れを切り出されるまで僕は絶対に離れない」
「嘘言うな二股してるやつが」
「二股なんてしてない、相馬君は僕の初めて好きになった人で、初めて付き合った人だ。他なんていない」
「デート中に他のやつとラインしてたんだろ」
「あれは母親だ、僕のラインにはそもそも家族と相馬君の友達登録しかない、確認してもらっても構わない」
僕が先ほどから開いていたラインの友達画面を開いて目の前に突き出す。彼は注意深く確認するように画面を見て目を瞬いた。そしてようやく正気を取り戻したかのように身を引いた。
「すまない、何か誤解が生じているみたいだ」
「そうだろうね」
僕と彼はそれから答え合わせをするように、絡まった糸をほどくように、話をした。相馬と出会ってから今日までの話。少しだけ、彼と相馬の話を聞いた。
最後に彼は言いにくそうに僕にラインのIDを出して「よかったら俺とも友達になってよ」と言った。僕の友達が一人増えた。
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