【渡辺相馬視点】1

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【渡辺相馬視点】1

αが嫌いだった。 Ωを庇護対象だと思っているような傲慢な態度、そしてそのΩを守るのがαの務めだと言わんばかりの偽善じみた態度と言葉。 αに選ばれないΩは不幸だとでも言わんばかりの世間の風刺は吐き気がする。 Ωであるが故か、それとも単に遺伝子的なものなのか、俺の容姿は世間一般的に美しいと評価される。美人は優遇されると皆は羨むが、圧倒的にこの容姿は俺にとってはデメリットのほうが多かった。ある者には疎まれ、妬まれ、ある者は俺を手にするために躍起になった。小中でいじめをうけたのは校内で皆の羨望を受けるαや人気者が皆俺を好いたから。その周囲の者たちはやりどころのない怒りや嫉妬を俺に向けた。 人からの好意、ひと際αからの好意が怖くなった。人から向けられる感情に敏感になった。 高校に上がると俺はこの容姿でうまく立ち回る方法を模索し、尻軽な遊び人としての自分を作り上げた。不思議と「遊び人」というレッテルは楽だった。本気で向き合わなくていい、そうすることで相手も俺を本気で好きにはならない。来るもの拒まず去るもの追わず。小中の頃のようないじめにも高校では合わなかった。 αが嫌いだ、それは今も変わらない。それでも俺がαと関係をもつのはそれが俺の作り上げた自己防衛の手段だからだ。自分のためだと思えば我慢できた。それでも婚約となると話は別だ。傲慢で偽善ぶったαと四六時中顔を突き合わせるなんて、考えるだけで耐えられない。 だから、αらしからぬ今回の見合い相手である斎藤 奏汰を俺は存外気に入っていた。きっと奏汰は他のαのように自分の自己満を俺に押し付けてくるようなことはしないだろうと期待した。 奏汰が俺と同じ大学に通っていることを知ったときは驚いた。曰く、彼は理系の学部であるため文系の自分とは滅多に顔を合わせることはないのだと聞き納得した。キャンパスは同じと言えど、理系と文系では講義を受ける校舎が違うのだ。顔を合わせるとしたら一般教養の授業かあるいは学食くらいだろう。 例え会っていたとしても、αらしからぬ奏汰の影の薄さではきっと気づかなかっただろうが。 「この子、いつも勉強だの研究だので今まで浮いた話一つなくて」 奏汰の母親がころころと笑って話すのを「やめてよ、母さん」と恥ずかしそうに咎める。 「だから今回相馬君が奏汰とのお見合いを受けてくれたときはすごくうれしかったの」 ありがとう、そう心底嬉しそうに笑って礼を言う奏汰の母親に「こちらこそ」と俺と俺の両親は慌ててしまう。普通このようなお見合いの場では、α側の親がここまで下手にでてくることなど滅多にない。それこそα側の親は「わざわざ来てやったんだ」とこちらに礼とご機嫌取りを要求してくる者も少なくない。 この両親あっての奏汰の性格なのかと、俺の奏汰への好感度はまさにうなぎのぼりだった。
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