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【渡辺相馬視点】2
食事を終え、両家の両親たちは部屋を出ていく。
途端緊張したようにそわそわと落ち着きをなくした奏汰に俺は笑いかける。
「そんなに緊張しないでよ、同じ年なんだし。奏汰って呼んでもいい?俺のことは相馬って呼んでくれていい」
「うん、相馬、君」
普段何してるの、何が好きなの、基本俺が主体となって話を進める。話下手とはいえ、奏汰は話のきっかけや話題を作るのが苦手なだけで、ある程度話のきっかけをつかめばいろいろな話を聞かせてくれた。今熱中している研究の話は正直聞いても理解はできなかったが、いきいきとしている奏汰は悪くなかった。
「奏汰はこのお見合いどう思ってる?」
頃合いかな、ある程度距離が詰まったであろうタイミングを見極めて、核心に迫る。
「え、どうって・・・」
「俺に会ってどう思った?素直に結婚相手としてあり?なし?」
緊張が伝わらないように、なるべく軽くいつもの調子で尋ねる。表情も声も落ち着いている。それでも机の下で握りしめた掌は緊張で震えていた。
一瞬言葉を詰まらせた奏汰に喉が渇く。けれどこちらが怖い顔でみがまえていたら奏汰の性格上断るに断れないだろう。
「いや、全然、無理なら無理でいいから、そんな思いつめた顔するなよ」
気を遣わせないように発した言葉に今度は奏汰が泣きそうな顔をするから困ってしまう。真面目で不器用な彼はきっと断りを入れることすら俺を想って傷ついてしまうのだ。
答えを急ぎすぎてしまっただろうか、もう少し間を空けてから後日違う場で聞くべきだっただろうか。お見合いなんてこれが初めてなのだから手順などわからない。
「無理じゃない、無理じゃない、けど」
首を振って、夢中に俺の言葉を否定する奏汰。喜ぶのもつかの間、その後に続く逆説的な接続詞に嫌な予感がした。自分にとってうれしい言葉の後に逆説的に続く言葉などうれしい言葉のはずがない。
「けど?」
「お互い、その、縛りすぎない関係にしよう」
その言葉の意図が分かりかねて首をかしげる。
「束縛しすぎないでってことか?」
「その、僕と婚約したからって相馬君が他の誰かと浮気しても僕は咎めないし、相馬君が僕のことを嫌いになったらいつでもこの関係を破棄してもいいって提案なんだけど」
空いた口がふさがらないとはこのことだ。
浮気してもいい?いつでも破棄していい?
つまりそれは俺にも「奏汰が他の誰かと浮気しても許す」こと、「奏汰が俺を嫌いになったらこの関係の破棄を受け入れる」ことを約束しろと、そういうわけか。
舞い上がっていた気持ちが一気に落とされるのを感じた。でも考えてみればその関係は俺にとって一番楽だ。
俺は数秒目をつむって気持ちに整理をつける。そしていつもの外ずらのいい笑顔を張り付ける。
「いいね、その提案大賛成」
俺がそう言えば、奏汰は安心したように笑い返す。
「これからよろしくな奏汰」
強く手を組みかわし握手をしてその日のお見合いは解散となった。
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