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【渡辺相馬視点】4
食堂に入ると奥であまり見かけない顔ぶれを見つける。その中に奏汰の姿を見つけて、彼らが理系の人たちだと気づく。
その中で理系にしては珍しく髪色の明るい女生徒が食堂中に響くほど高く大きな声で言う。
「ええ、奏汰君ってαなの?全然見えない」
αという言葉に皆がその会話に注意を示すも、彼女は一切気づかぬ様子で会話を続ける。
「じゃあもしかして奏汰君狙い目だったり?」
椅子に座る奏汰を後ろから胸を押し当てるように抱きしめる女子大生と、それにまごつく奏汰。本当に不快すぎて視界にさえ入れたくない。奏汰の性格上押されれば誰にでも押し切られるに違いない。
そもそもお互い浮気をしても許すという契約だ。ここで俺が口を出す話でもない。
「奏汰君今好きな子いる?」
分かりやすいアプローチに腹が立つ。周囲も面白がるように二人のやり取りを見て、時折揶揄うようなヤジを飛ばす。
嫌なら食堂を出ればいいのに、それでも見てしまうのは気になるから。きっとその女生徒と同じくらい、それ以上にその質問の答えが聞きたいから。
「い、います。なので、その、困ります」
「ええ、いるの?私よりも可愛い?」
それでもしつこく問いただす彼女に困ったような顔を見せる。それでも今度ははっきりと口調を強めた。
「あなたより・・・というか世界で一番可愛い人です」
その言葉にきっと嘘なんてない。素直な奏汰は嘘をつけない。忍との会話を思い出す。
―—「一つ目、相手には相馬とは別に好きな人がいる」
俺との関係はその相手を隠すための隠れ蓑。
奏汰を恨む気持ちにはなれない。ただ、そこまで奏汰に思われる相手がうらやましく思う。そしてそのほんの少しでいい、自分にむけてくれたらうれしい。
「ね、ちょっと用があって、彼、少し借りてもいい?」
「相馬君!」
牽制するように奏汰の後ろにいまだへばりつく女生徒に笑いかければ、彼女は一瞬見惚れるように俺を見て、はっと我に返ると「どうぞどうぞ」とあっさりと奏汰から体を離す。
「え、渡辺 相馬、さんと、知り合いなのか斎藤」
「知り合いというか・・・その」
どうして理系にまで自分の名前が知られているのか。そんな疑問はさておき言いよどむ奏汰の代わりに笑顔で答える。
「友人です」
そして嘘の下手な奏汰がそれ以上ボロを出さないうちに、早々に彼らとの会話を切り上げ、俺は奏汰の腕をひくようにして食堂を出た。
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