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【渡辺相馬視点】5
しばらく歩いて手を離す。数週間ぶりの再会は正直そんなにうれしい再会ではない。
「あ、あの、会話聞いてた?」
「・・・聞こえてきただけだ」
盗み聞きしていただけに歯切れ悪くそんな言い訳をこぼして、話題をすり替えるようにして奏汰に向きなおる。
「お前、好きな人がいるならそんな無防備に好きでもないやつに触らせるなよ」
「ごめん」
「いや、俺に謝られても」
関係ないし。俺が呆れたように言うと、「そうだよね、ごめんね」そう言ってまた謝る。
俺は大きなため息をついた。
「まあいいや、それじゃあ」
「え!?それだけ」
奏汰の言葉に俺は首をかしげる。俺の怪訝そうな表情に奏汰はようやく何やら察したように俺に言った。
「もしかして僕を助けてくれたの」
ここまで直球に尋ねられて「そうです」と答えるのも格好がつかないだろう。「別に」俺はそう返した。
「じゃあ、僕に用ってのはないの」
その言葉に先ほど自分が奏汰を連れ出した時のことを思い出して、俺は思わず噴き出した。素直すぎるというか、察しが悪いというか。
「用はねえよ、悪かったな」
「悪くない、全然悪くない」
ぷるぷると首を振って、「助けてくれてありがとう」と今更ながらにお礼を言われた。
「じゃあな」今度こそそう言って踵を返す。その時、「待って」と呼び止められる。それだけのことに喜んでしまう自分は本当に馬鹿で単純だ。「何?」となんてことないように平然とした顔で振り返れば奏汰はおずおずと何かを俺にさしだす。
「もしよかったら、その、映画見にいかない?」
「別にいいけど」
それは俺でいいのか。
渡された映画の券を受け取って、タイトルに目を落とす。そして思わずつぶやく。
「これ、見たかったやつだ」
いつ行く?今から?奏汰って午後から講義ある?
ひっきりなしに質問をしながら奏汰に視線を上げると、いつになく嬉しそうに奏汰が笑っている。思わず舞い上がってしまったことに恥ずかしくなって「悪い」と謝ると「全然悪くない」と嬉しそうに返された。
「相馬君も午後から授業ないなら今から行こう」
今度は奏汰に手を取られて、俺はそのあとに続いた。
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