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序章
どす黒い泡雲がモクモクと湧き出してきて、烈火の太陽球を覆い隠していく。
昼の日中が真夜中のように暗黒化していくのにも僕は気付かなかった。
浜釣りに夢中になって周りが見えなくなるのは何時ものことだが、この日の引きは、これまでとは別次元で、全神経がリールに添えた指先に集中していた。
最初は海底の岩場か潜水艦に針が引っ掛かったと思った。
しかし、リールの感触は確かに生き物が喰ったときのものだ。
瀬戸内海に迷い込んだ髭クジラが間違ってルアーに喰い付いたのか?
哺乳類は賢い筈だからそんなドジは踏まないだろう。
いずれにしても、相手はとてつもなく大きなバケモノに違いない。
思わずブルってしまうが、一生に一度あるかないかの大きなチャンスだ。
奇跡の巨大魚を釣り上げて有名人になれば僕のことを馬鹿にしてきた奴らを見返せるかもしれない。
殴ったり蹴ったりする男子もムカつくが、女子は比較にならないほど憎悪度極大だ。
僕の姿が視界に入っただけで氷河期の如く凍り付き、汚物を踏んづけたような顔になって、オタマジャクシの死骸を摘んで眺めるような目で睨み付けてくる。
一矢報いてやるのだ。
だから、海底に引きずり込まれても竿を放すわけにはいかない。
絶対に釣り上げてみせるぞ。
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