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僕はプレジャーボートのデッキに横たわりユラユラ揺れていたが、運良く救助されたわけでも、ずっと悪夢を見ていたわけでもなく、大問題なのはそのボートが浮かんでいる場所で、其処は不気味な湯気と泡がポコポコ沸いている毒々しいピンク色の沼のようなところだった。
おそらく、というか、確実に、このボートは僕と一緒にバケモノに呑み込まれ、浮かんでいるのはそいつの胃袋の中で、間違ってボートから転げ落ちようものなら、僕の身体は強酸性の胃液でトロトロに分解されて、ブヨブヨの胃壁に吸収されてしまうというわけだ。
「ウンチと一緒でも我慢するから、このまま肛門まで辿り着いてくれ」
そんな祈りも虚しく、地響きのような波動が螺旋状に迫ってきて、ボートは渦に巻き込まれ、目が回り天地が分からなくなった。
巨大魚が無邪気に跳ねて遊んでいるのか、それとも、さすがにボートを呑み込んで胃痙攣でも起こしたのか。
そのときだった。突然、天まで届きそうなほど高く、羽根のように薄い、巨大な刃先が縦横無尽に物凄い速度で通り過ぎ、瞬く間に胃袋が微塵切りになってしまった。
僕はボートごと胃液と一緒に外に押し流された。
強烈な光を浴びて目が眩む。
目前にぼんやりと浮かび上がったのは、何処かで見たような平凡な外観の校舎で、そこまではごく普通の風景だったのだが、校舎の裏で暴れているのは、深紅の頭が八つある、体長五十メートルはありそうな大蛇だった。
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