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僕が寝泊まりしている守護神寮は出島になっていて、簾越しに波の音が聴こえる。波に揺られているような気分でウトウトしていると突然、ドンと腹に響く重低音は悪棲が飛び跳ねている音だ。
簾一枚挟んで隣はムーちゃんの部屋で、ムーちゃんのシルエットが揺れる度に、緊張して、興奮して、発情して、かなり幸せだったのだが、そんな呑気なことを言っている場合ではなくなってきた。
簾の下から拳大の黒い玉が転がってきて、表面が罅割れて赤い芽がニョキっと這い出し、強烈な臭いが噴き出してきた。
ムーちゃんが簾を巻き上げて顔を出し、痙攣している僕のことを素っ気なく一瞥した。
「それ、あいつらの好物なの。これに向かって、八つの頭を一束に捩じって突進してくるから、そこを神刃で一刀両断にするのよ。八つの頭を個別にぶった切っていたら日が暮れちゃうでしょう」
ムーちゃんの髪が深紅に染まってモソモソと動き出す。まずい。この玉が好物だとすると、奴らはこの部屋を襲撃してくるのではないのか。
見上げた瞬間、頭上にあった天井も柱も瓦も何もかもが綿粒の如く吹き飛ばされて、ヤマタノオロチが八つの頭を横一列に並べてこちらを目掛けて突進してきた。それも一匹ではなく、そいつの後ろには、たくさんの仲間たちが順番待ちしている。
僕はたまらず簾を破ってムーちゃんの部屋に飛び込んだ。強烈な電流が身体の芯を貫通し、目の前が真っ白になり、僕は天高く舞い上がった。
身体を翻して地上に目をやると、ムーちゃんが黒い玉を宙にばら撒き、突進してきたヤマタノオロチどもを、自分の背丈より長い神刃で次々とぶった切っていくのが見えた。刃先が月明かりを反射して夜空に八の字の眩い軌跡を描く。見事に切断された頭が降り積もって大きな山となる。
ムーちゃんの刀裁きを眺めているうちに、動きのイメージが頭の中に出来上がっていく。これなら僕でも狩りが出来そうな気がしてきた。
僕は遥か天空から筒状の無重力空間の中をゆっくりと降下して楽々と着地し、何事もなかったかのように寮に戻った。
しかし、完全にぶっ壊れて瓦礫の山と化した守護神寮のあり様と、腕組みしてこちらを睨み付けている神々の姿を見た瞬間、眩暈がして、ぶっ倒れてしまった。
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