1.汽車は春の丘を越えて

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 たとえ相手が妹でも、こうも間近から顔を凝視されると少し居心地が悪い。  ハツキも横目でサホを見下ろした。 「……何?」  言葉少なく尋ねると、サホは嬉しそうに笑った。 「ううん。兄様はやっぱりお綺麗だなって思って。短い御髪も良くお似合いになってる」 「おまえはまた……。いい加減、それやめろよ」 「どうして? 兄様がお綺麗なのは本当のことじゃない。みんな言っているのに。ねえ、父様」  ──みんなとは一体誰のことだ。身内だけのことじゃないか。  ハツキは妹を問いただしたかったが、サホに話を振られたアリタダも、妹の意見に大きく頷いていた。  二人の様子にハツキの眉間に皺が寄る。  しかし、この話題の時のハツキの態度など意にも介さない家族はそのまま会話を続けた。 「そうだな。ハツキはお母さんのカザハヤの特徴が良く出ているからなあ。髪が短くなって雰囲気は変わったが……うん、やっぱりカザハヤのひいお祖母さんの若い頃が一番似ているな」 「やっぱりそうよね、父様! 私、お祖父様のお屋敷でひいお祖母様のお写真を見る度にいつも思うの。兄様にそっくりで、夢のようにお綺麗だなって。ひいお祖母様、今でもお綺麗でいらっしゃるわよね」
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