1.汽車は春の丘を越えて

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「どうしたハツキ。また難しい顔をして」  食堂車から新しいシードルの瓶と、自分達のグラスを持って来たサネアキが声をかけてきた。  瓶とグラスをテーブルに置き、ハツキ達の向かい側、父の隣に座る。  ハツキに尋ねる体を取っているが、サネアキはこんな場面には慣れている。わざわざ説明をするまでもないし、そもそも何を言ったところでハツキに分がないのは明らかだ。  ハツキはサネアキからも視線を逸し、車窓の外に緑の目を向けた。  しかし、次いで洩らされた父の言葉に、すぐに視線を戻す。 「でもなあ、やっぱりハツキもサホも間違いなくチグサの子だな」  視線を戻したハツキと目が合ったアリタダが言葉を句切り、ハツキに頷いてくる。  そして再度口を開いた。 「チグサは昔から、学者先生やお医者になるような頭のいい人間と、俺のように考えるよりも身体を動かす仕事が得意な人間の両方を出してきたからな。ハツキとサホは勉強が得意だろう? それはれっきとしたチグサの血だよ」 「ああ。カザハヤのお祖母様が院長を勤められる病院も、チグサのひいひいお祖父様が設立なされたのでしたね」  サネアキが言うと、サホは身を乗り出して目を輝かせた。 「私、頑張ってお祖母様の跡を継ぐの! 来年は私も絶対王立学院大学に入学してみせるわ!」
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