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ハツキが微笑を向けたからだろう。
アリタダは安心したように肩の力を抜いた。
シードルを注ぎ分けたグラスをサホに渡しながら、サネアキもハツキに笑いかけてくる。
この会話の機微を理解出来ない末妹のサホは、サネアキからグラスを受け取りながら不思議そうな表情でハツキを見上げてきた。しかし、父と義兄に安心を与えることだけが、ハツキにとって必要だった。妹に対して説明をするつもりはない。また、サホもそんな兄に対して何を訊いてくる訳でもなかった。
それでいいのだと思う。
その後は、主にハツキ以外の三人の会話だった。
誰かに話題を振られた時だけ、ハツキは答えるか相槌を打っていた。実家にいる時と同じような談笑。
そうしているうちに、ふとサネアキが口を閉ざし、ハツキを凝視してきた。
──気づかれたか。
この人は、家族の中でもハツキの体調を見分けるのが早いほうなのだ。
「ハツキ。おまえ、昨晩あまり眠ることが出来なかったんだろう」
そう言われ、ハツキは曖昧に笑った。
「……汽車の中だからね。でも、大丈夫だよ」
「何を言っている。どうせヴィレドクルワーゼに着くのは夕方だ。時間はあるのだから、まあ……寝られないとは思うが、戻って横になっておけ。目を閉じているだけでも楽になる」
心配はいらないと言い返そうとした。けれどハツキの反論を封じるような視線をサネアキが向けていることに気づき、ハツキは開きかけた口を閉ざして目を伏せた。
「……はい。……ありがとう、アキ兄」
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