1.汽車は春の丘を越えて

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「だと思った」  からからと笑いながらサネアキはハツキの頭を撫でた。 「ここで起こさなかったら、おまえに恨まれるところだった」 「そりゃあ……食事は僕の数少ない楽しみなんだよ? それまで邪魔をされたくはないよ」 「これからはそんなこともなくなるさ。楽しめることが沢山ある。ほら、用意をしろよ」  急かされてハツキは寝台から下り、室内の洗面台で顔を洗った。  ハツキが顔を洗っている間にサネアキがハンガーから取ってくれた服を受け取り、姿を整える。そうしてサネアキと一緒に食堂車に向かうと、既にアリタダとサホは席に着いていた。  ハツキの姿を見て二人が笑いかけてくる。 「兄様、お加減大丈夫?」 「アキ兄のおかげで、休めたよ」  サホに答えたハツキの頭に手を置いて、サネアキが更に続けた。 「まあ、食事の後も休んでおいたほうがいいだろうけれどな」  その言葉に反論しようとしたハツキだったが、ぱんぱんと手を打った父親にそれは遮られた。 「そんなことより、二人とも早く席に着け。昼飯にしようじゃないか。身体は動かしていないのに、意外と腹が減ってなあ」
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