2.街の煌めき遠く溢れ

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 自分達の会話を聞いて俯いてしまったハツキの肩を、隣に座るサネユキがそっと抱き寄せた。彼の温かさは心身に染みいる。けれど今は、俯いた顔を上げることが出来なかった。  乗っている人間の意思に関わらず車は滑らかに目的地へ進む。  するすると車回しに入ると、玄関の車止めの屋根の下で停車した。 「よく来たな!」  開けられた車の扉からアリタダに続いてハツキが降りると、待ち構えていた伯父のキミノリに早速抱擁された。  自分を抱き締める伯父の腕の力の強さに、刹那息が止まる。 「髪を短くしたんだな! すっかりヴィレドコーリの学生さんだ。よく似合っているぞ! おまえがこちらに出てくる日を一日千秋の思いで待ちかねていたのだよ! おまえの部屋もちゃんと用意が出来ているからな。早速見に行くだろう?」 「ちょ……、伯父様……!」  腕の中で困惑するハツキを、キミノリが有無を言わさず屋敷内に引っ張っていこうとする。  だがそれを祖父の呆れた声が止めた。 「キミノリ。嬉しさに舞い上がるのは解るが、きちんと挨拶をせんか」  父親の大カザハヤ、カザハヤ・サネシゲのまるで小さな子供を諫めるかのような言葉にキミノリは足を止め、決まりの悪い表情でハツキを解放する。  伯父の腕から解放されて、ハツキは深く息をついた。
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