2.街の煌めき遠く溢れ

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 ハツキが窓からの景色がとてもいいと言ったことを伯父は覚えてくれていたらしい。  一月(雪月)の受験の時に使わせてもらった二階の南西の角部屋を、今回のハツキの下宿ために伯父は改装してくれていた。  壁紙は淡い緑を基調とし、床の絨毯は薄い茶色で毛足の長い踏み心地の良いもの。机や書棚、ソファ前のローテーブルなどは胡桃材のもので統一されている。  華美ではないが上質な内装で揃えられたそこは、ハツキの好みに合う落ち着いた雰囲気の部屋になっていた。  ハツキは一目見てこの部屋が気に入り、そしてこのことは素直に嬉しいと思った。  ハツキのすぐ横から、部屋の感想を知りたいキミノリが期待に満ちた目でこちらを見つめている。  カザハヤの一族はヤウデン系の中でも長身の部類だ。  祖父のサネシゲでも、母方のカザハヤの特徴を色濃く受け継ぎ、背ばかりはチグサの自分の父親よりも高いハツキとほぼ同じ身長がある。伯父のキミノリとその二人の息子達は、そんなハツキよりも数センチのこととはいえ更に背が高い。  加えて、一族の者は引き締まった細身の体型と、切れ長で理知的な瞳の端整な顔立ちを持っているのだが、今自分を見下ろす伯父の表情は、そんな外見が他人に与える印象をあまりに裏切っていた。  嬉しさと、そんな彼の表情に少し愉快な気分になって、ハツキは微笑んで伯父を見上げた。 「とても良い部屋で気に入りました。伯父様、ありがとうございます」  ハツキの言葉にキミノリが満面の笑みを浮かべる。
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