2.街の煌めき遠く溢れ

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 そんなハツキにキミノリも返事を強要しない。  彼は小さな微笑を一つ浮かべると、ハツキの頭を軽くぽんぽんと叩いた。 「今すぐには解らなくとも、大学が始まったらおまえの周囲の環境も変わる。そこで何かを見つけられたらいいんだよ」 「……はい」 「さあ、下へ降りよう。今日は人も多いしご馳走だぞ。うちの料理人の腕はおまえも知っているだろう? さて、サホは喜んでくれるかな?」  この伯父は、ハツキに対するものは確かに過剰であるものの、基本的にこうやって人を喜ばせることが好きなのだ。  この質問にはハツキも笑って答えることが出来た。 「ええ、喜ぶと思います。きっと興奮して、ものすごく沢山食べるんじゃないでしょうか」  汽車の中で、彼女がメニューに載っていた菓子をほぼ全て制覇していたらしいことはあえて黙っておいた。  ハツキの想像通り、晩餐の席に並んだカザハヤの自慢の料理人が腕を振るった料理にサホは天に昇る勢いで感激した。妹は汽車の中でかなり食べていたにも関わらず、感激のまま料理人が感心するほどの健啖ぶりを発揮した。 「おいおい、サホ。いくらお祖父様のお屋敷だからって」  さすがにアリタダが見とがめて注意をする。  しかしサネシゲやキミノリがサホの食べっぷりに大いに喜んだので、彼女は食後のデザートまで嬉しそうに綺麗に平らげたのだった。
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