2.街の煌めき遠く溢れ

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「おまえ、汽車の旅で疲れているだろう。明日もおまえの先生となられる方との面談なんだ。今日はもう風呂に入ってゆっくり身体を休ませておけ」 「汽車の中でもちゃんと眠ることが出来たよ」  事実を告げることで彼に反論をしたが、彼は笑みを深くしてあしらっただけだった。 「アキがいたんだ。出来ていなければ困る」  そう言って兄に対する信頼を垣間見せ、サネユキはハツキを抱き寄せた。 「明日からはいくらでも時間が取れて、またおまえと一緒に過ごすことが出来る。わざわざ急ぐ必要など、どこにもないだろう? 今日はおとなしく俺の言うことを聞くんだ」  彼の言うことも、ある一点を除けば真実だった。これ以上の反論は出来ない。  彼の匂いを深く吸い込み、気持ちを落ち着かせる。  ハツキがようやく素直に頷くのを見て、サネユキはハツキの頬にキスを寄せてきた。  キスをした後ハツキを離しながら、サネユキが近くにいた使用人に、この後外出をするので彼の護衛の者に車を用意するよう言伝を依頼する。  それを目にしハツキは、昔と違い今は彼には彼の予定もあるのだと己に納得をさせるしかなかった。
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