2.街の煌めき遠く溢れ

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 サネユキに言われた通りおとなしく風呂に向かい、温かく心地よい湯にゆっくりとつかって旅の疲れを癒やすと、ハツキは新しい自室に戻った。  カザハヤは王都の住まいも広大な屋敷なので、主人風呂、家人風呂、客人風呂、使用人風呂とあるだけでなく、主人風呂以外は男女で浴室が分かれている。  女性の多い実家とは異なり、女性用の客人風呂を一人で気兼ねなく使えることにもサホは非常に感激していた。ハツキと同じように、彼女も食後すぐに風呂に行ったが、多分まだ長々と入浴中だろう。  ハツキは部屋に入ると、明かりを点けずベッドの横を通って西側の窓へ向かった。  窓を開け、用意されている外履きを履いてバルコニーに出る。  ベーヌよりは暖かいとはいえ、ヴィレドコーリの三月(風月)の夜風も冷たい。  湯冷めをしないように、寝間着の上から羽織った厚手の肩掛けの胸元を合わせ直しながら、ハツキはバルコニーの手摺の傍まで向かった。  夜の闇に暗い影となった庭の木々の向こうに、明るく光るヴィレドコーリの中心地を見ることが出来る。  太陽のある日中の景色だったら、周囲を標高の高い山々で囲まれた盆地になっている故郷ベーヌの風景が好きだ。  だが夜の景色は、まるで地上に天空の星の煌めく夜空が広がるようにも思われる、この場所からのヴィレドコーリ中心地への眺めが好きだった。
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