2.街の煌めき遠く溢れ

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 あの光の一つ一つに人の息吹を感じることが出来る。  自分がその中に交わることが出来ないと解っていても、解っているからこそ、かけがえのないそれらが愛おしい。  それが夜のヴィレドコーリの景色が好きな理由の一つであるのかもしれなかった。  しばらくそうして街を見つめていたが、不意に小さなくしゃみが出て身体が震えた。  ベーヌほどではないとはいえ、やはり夜の屋外は冷える。  すん、と鼻をすするとハツキは部屋に戻った。  セントラルヒーティングで暖められた室内の温度にほっとしながら、真新しいシーツで用意されているベッドに腰掛けて天井を見上げる。窓から入る庭園灯の明かりが、天井にぼんやりと窓枠の影を映し出す。  昼間汽車の中で休んだので、特に眠気はない。  本でも読んで時間を潰そうかと視線を動かし、視界に部屋の書棚が入ってきた。  キミノリが用意してくれたその書棚には、既に何冊かの本やノートが入れられている。しかし暗がりの中それを目にしても、食指は動かなかった。  それによって自分の神経が昂ぶっていることに気がついた。  おそらく、ハツキも自覚していなかったこのことを見抜いて、早めに休むように指示をしたのだろうサネユキの慧眼に、今に始まったことではないとはいえ畏れ入る。
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