2.街の煌めき遠く溢れ

15/15
前へ
/224ページ
次へ
 昨年の七月(収穫月)に十八歳の誕生日を迎え、自分は成年になることが出来た。  実際に成年を迎えられたとはいえ、自分がベーヌを、あの土地を離れられるなど、ほんの半年前までは想像もしていなかったことだった。  もう、自由になっていい。  サネユキをはじめとする家族や親族が、そう言ってハツキに自分のしたいようにしたらいい、自分の人生を生きたらいいのだと、今回のことをお膳立てしてくれた。  そのことは言葉では言い表せない程に有難く感じている。  ここにこうやって、本当に自分がいることは、知らず興奮してしまっていたまで信じがたいほどに嬉しい。  けれど。  不意に我に返ると、昂ぶりは霧のように消えていった。  虚ろになった胸の内を持て余し、天井を見上げたまま、ぽすんとベッドに上半身を倒す。  ──果たして、いつまで。  悔いのない大学生活を送りたいと思っている。  また、自分をヴィレドコーリに送り出してくれた、自分を思ってくれている人達の望みが叶えられたらと願ってもいる。  真実願っているのだ。  目を閉じ、右腕で両目を押さえる。  ──けれど、神がこれを与えることを望まれた。  どんなに請い願っても、叶わない現実が厳然とここにあることを忘れることは出来なかった。
/224ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加