4.昼のうつつ 夜の『夢』

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 前を歩く祖父が、一つの扉の前で立ち止まった。  ハツキも足を止めて、祖父の前の黒光りがするマホガニーの扉に目を向けた。扉横の壁に掲げられた表札にはグィノー・コンラドの名前がある。  サネシゲが扉を叩くと(いら)えがあり、中から扉が開かれた。  扉を開けたのは、昨年の秋にベーヌで会った、麦藁色の髪を丁寧に撫でつけ、榛色(はしばみいろ)の瞳をした几帳面そうな初老の男性だ。  彼はサネシゲを見て礼をし、次いでハツキの姿に目許を綻ばせた。 「お待ちしていました」 「先生御自らお出迎えくださるとは……お忙しい中、お時間をいただき恐縮です」 「何をおっしゃいますやら。カザハヤ公に比べましたら、春休み中の教員など暇を持て余しているようなものです。さあ、どうぞ中へ」  この研究室の主、グィノー・コンラドに招き入れられて部屋に入る。  扉を開いたままのグィノーの傍を通る時、ハツキが軽く会釈をすると、グィノーは再度目許を緩めた。  日の光が差し込む明るい部屋の中にはもう一人、栗色の緩く癖のある髪をした若い男性がいて、彼は客人を目にするとにこやかに微笑んで礼をした。
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