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グィノーの視線がハツキの動きを追いかけ、ソファに座ったままこちらを見上げてくる。
ハツキは自分を見つめる教授に礼儀正しく一礼した。
「申し訳ありませんが、お先に失礼させていただきます。四月からよろしくお願いいたします」
「うむ。次は入学式の後、こちらに顔を出しなさい」
「はい。……ボードリエさんも、よろしくお願いいたします」
奥の自分の机で資料を広げていたボードリエにも挨拶をすると、彼は顔を上げ、また嬉しそうに笑った。
「こちらこそよろしく。君のように優秀で可愛い後輩が出来て、僕も嬉しいよ」
ボードリエは他意もなくそう言ったようだったが、彼の言葉にハツキは内心首を傾げた。
──可愛い?
何を指して可愛いなどと形容しているのか全く理解出来ない。しかし口に出して確認するようなことでもない。
ハツキはボードリエに黙って会釈だけを返しておいた。
再度失礼しますと礼をして、ハツキはグィノーのヤウデン歴史・文化研究室を辞した。
明るかった部屋から出ると、建物の北側にある廊下が実際以上に暗く感じられる。
ハツキは薄暗く人気ない廊下を足早に過ぎると、階段を降りて文学部研究棟の外に出た。
建物の入口の傍に、屋敷から乗ってきた車が停められている。車の傍で待機している運転手がこちらに気づいて顔を上げてきたが、相手に小さく会釈だけして、ハツキは大講堂へ向かった。
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