1.汽車は春の丘を越えて

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「え……? それは僕だって言いたいよ。だって、僕は大層なことなんて何もしていないもの」 「うちの息子は何を寝言を言うかなぁ」  呵々とアリタダが笑う。 「つまらないからと言って学校の授業には全く出なかったのに、試験の成績は在学中見事に毎回首席だっただなんて人間は、そうそういるもんじゃないぞ!」  父親に笑って指摘されたことが事実であるために、ハツキは再度父親から視線を逸らして口を閉ざした。  解りきったことばかり教える授業は、退屈以外のなにものでもなかった。だけでなく、教師も含めた周囲の人間の態度も気に食わなくて、昔からハツキは学校が大嫌いだった。  それでも、両親があくまで自分を「チグサの子」として育ててくれようとしていたことを解っていたので、小学校は渋々と通学した。  しかし、中学生の頃になるといよいよ耐えるのが難しくなってしまった。そのためにハツキは中学校以降、定期考査の日以外は一切学校に登校しなくなってしまった。  代わりに、ベーヌの野外に残る過去の遺構やカザハヤ屋敷の図書室、また自分が自由に出入りできるベーヌの神殿で、興味のあることを調べたり自習をしてきたのだった。
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