「すき」の手前のもう一歩手前

11/14
前へ
/14ページ
次へ
「だから、……だから、坂井さえよかったら、今度デートしない?」 「はっ……!?」 反射的に変な言葉が出る。この男なに言ってんだ。 すこしだけ冷静になっていた胸のドキドキが、三倍速くなる。わたしがおばあちゃんとかだったら、たぶん心臓発作で死んでるぞ。おばあちゃんじゃなくてよかったな。 そんな余計なことを考えていると、永谷もやっぱり照れくさかったのか、視線を泳がせながらまたしゃべくり始めた。 「あ、いや、なんか違うか、ごめん! でも、学校以外でも、会えたらいいなと思って」 慌てて話す永谷。なんだか、少しだけ、かわいく思えてくる。 「そうだね。土日とか、暇?」 わたしの言葉に、永谷は少し面食らったような顔をして、それでも即座に口を開いた。 「暇。どっちも暇。あ、いや、バイトあるけど、シフト変わってもらうからめっちゃ暇」 それ、暇じゃないよね。 永谷の言い回しとか、しぐさとか、それらのひとつひとつがおかしくて、なんだかかわいくて、つい吹き出してしまう。 つられて、永谷も笑う。 「無理しないでよ、いつでもいいから。またあとで連絡するから、連絡先教えて?」 「わかった、ごめん」 そうして、わたしと永谷の関係は、ただのクラスメイトとは少し違うものになった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加