「すき」の手前のもう一歩手前

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 「坂井」 呼ばれてとっさに顔をあげる。 彼を見るなり、思わず眉を潜めずにはいられなかった。 そんなわたしの反応を見て、彼・永谷はわたしから目を反らした。 やばい、ちょっと露骨だったかな。 気がついたら昨日と同じように、教室には二人だけだった。 少し不自然な間があいたあと、永谷は自分の席に近づきながら口を開く。 「坂井、部活は?」 全く予想もしてなかった普通の会話に、思わず拍子抜けしてしまう。 「……金曜だけしか、ないから」 「家庭部だっけ。さすがお母さん」 永谷のお母さんという呼び方に、なぜかちくりと心が傷んだ。 「永谷こそ、部活は?」 「おれは帰宅部だもん。五時からバイト」 「……ふーん……」 こんな歯切れの悪い会話が続いたら、それはそれでもたない。しばらく沈黙が続いたあと、口火を切ったのは永谷だった。
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