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彼は考える。
『何故、鼻水は永遠にで続けるのか』と。
「んふぅぅぅん⤴️……。」
この場には彼しかいない。何故ならここは、トイレの個室だからだ。そして彼は今、生まれてからの十数年、共に成長してきた右の鼻穴に無心でトイレットペーパーを押し込んでいた。どうして鼻水は出るのだろう。彼はじっとトイレのドアを睨み付けた。《花粉》…それが彼を苦しめる敵の名だ。
「…!?」
そのとき、彼は左鼻穴に予兆を感じた。今まで詰まっていた左鼻穴。が、彼は直感した。『出る!』と。彼は即座にトイレットペーパーを手繰り寄せる。今ならこの鼻づまりを解放させ、鼻から空気を感じられる!彼にとっての幸福はすぐそこまで来ていた。しかし、神様は意地悪だ。
「なっ!?」
彼は思わず鼻声でそう叫んだ。くしゃみだ。
くしゃみ、くしゃみが出る!!彼は急いでトイレットペーパーを必死に手に巻いた。僅かに残された決壊までの数秒間、巻いて巻いて巻きまくった。それはもう、トイレットペーパーの巻き付いた彼の左手と、トイレットペーパー本体、どちらが本物か分からないほどに。が、彼は爪が甘かった。
例えば、これほどまでに花粉に頭を悩ましているにも関わらず、今日の午後、彼女とのデートを約束していたり、大学のレポートが終わっていない理由を《花粉》としたことで教授に怒られたり…等々、頭が緩かったのだ。正直に言うと、彼女にも2度フラれかかっているし、単位は落としそうだ。更に最近はゲームばかりやり、バイトもしない。人にも優しく、自分にも優しく。彼はそういう人間だった。そこは彼のいいとこでもある。が、悪いことに繋がる方がほとんどだった。そして、今回もそうであった。
彼は己の横隔膜が震える寸前になってようやく気づいたのだ。トイレットペーパーが、切れない。彼は引っ張り、捻って、どうにか切ろうとした。が、さすがついていない男。奮闘の末、間に合わずに彼は盛大に吹いた。
「ぶぇっっくしっ!!」
詰め込んだ弾丸のようなトイレットペーパーを筆頭に、飛び散る右鼻穴のさらさら鼻水と唾液。そして、決壊した左鼻穴から溢れ出る鼻水。先程までの鼻づまりが嘘のように止めどなく溢れ出た鼻水は彼のお気に入りのパーカーを汚し、更には左手のトイレットペーパー、そして本体にさえも、平等に降り注いだ。
「あぁぁ……。」
くしゃみが出た快感と同時に絶望が彼を襲った。そして、少しずつ彼は怒りを覚え始めた。何故だ。何故、俺がこんな目に遭わねばならないのだ……。自然と涙が溢れた。鼻水も溢れていたので大変汚ならしい絵面ではあったが、彼はそんなことは省みなかった。悔しかった。そして、この鼻水をどうにかしたいという思いに駆られた。
その日から、彼の闘いが始まった。
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