もうひとつの約束

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「これからもずっと、ここにいてもらえませんか…」 和彦さんは僕の頭をポンポンと撫でた。 これも、一緒に暮らし始めた頃からずっと変わらない。 今では和彦さんの背を追い越したというのに。 「律希くん。これからは何の足枷もなく、生きたいように生きなさい」 「その答えがこれなんです!僕は、和彦さんに、ここでこれからも一緒にいてほしい…」 和彦さんは困ったように笑った。 「もう、子どもみたいなこと言って…」 「子どもです、十八なんてまだまだ子どもですよ!だからまだ一人でなんて生きてけない」 こらえ切れなくなった涙がぽろぽろと零れだす。和彦さんを困らせてしまっている。 「僕、和彦さんと離れたくないんです、お願いします!僕、僕はずっと、和彦さんのことが」 そこまで言ったところで、和彦さんは人差し指で自分の口を押さえて、かぶりを振った。 「それなら、なおさら僕はここから出てかなきゃ」 そう言われることはわかっていた。 困らせることも、わかっていた。 だから、ずっと、黙ってきた。 僕は、和彦さんのことを、愛しています。 「…ごめん、なさ…っ」 せり上がる嗚咽にうまく喋れなくなった僕の背中を優しく撫でる、和彦さんの手のひら。 もう、こうやって触れてもらえることは今後ないのだろう。 「僕には、生涯愛し続けると誓った相手がいてね。ごめんね」 どこまでも優しい和彦さん。謝ることなんて何もないのに。 …もしかして。 「その相手って…父さん?」 僕のことを見ては、父によく似てきたとたびたび目を細めていた。 その目がやけに悲しげで、切なげなのに気づいたのは、二、三年ほど前だったか。 和彦さんは否定とも肯定とも取れるような、柔らかく儚げな笑みを浮かべるだけだった。 【おわり】
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